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FCバルセロナの本拠地「新カンプノウ」を作る日本の建築家たちの挑戦

FCバルセロナの本拠地「新カンプノウ」を作る日本の建築家たちの挑戦

2017/12/29
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ポイントは「地中海的な」

 新カンプノウはどんなスタジアムになるのか。

 総工費は3億6000万ユーロ(約478億円)。バルセロナのクラブ史に残る、一大プロジェクトだ。

 都市と気候に呼応する開かれたスタジアムにする、というテーマのもと、いくつかのポイントが掲げられている。

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 興味深いのは、Mediterranean、『地中海的な』という部分だ。

「バルセロナの気候、地中海性気候を考えると、冬でも比較的温暖という利点があります。それを生かして、できるだけオープンなスタジアムにしようと考えています。当然、これは寒さの厳しい北ヨーロッパでは実現不可能なことです。その意味でも南欧独自の、ユニークなスタジアムになると思います」

 完成予想図を見ると、スタジアムは覆われておらず、「コンコース・テラス」が全周にわたって同じ形状で続いている。外装がないのだ。コンコースにはゆったりとした空間があり、自由に座れるソファや、スポンサーの展示スペースも確保する。オープンで地中海的なスタジアム。コンコースを歩くバルサのユニフォームを着たファンそのものが、バルセロナという都市の風景の一部となるのが理想だ。

ゆったりとしたスペースがある新カンプノウ

 勝矢は言う。

「現在のカンプノウは中に入ってもらうと分かりますが、薄暗く、どうしても密閉感があります。スタジアムの中でゆっくりと過ごせるようなスペースもありません。いわば、バルサを愛するサッカー好きのおじさんのためのスタジアムです。これを“親父から家族へ”変えたいと思っています。カンプノウを奥さんを連れていける場所にしてほしい――そんな要望もあるので」

 現カンプノウの一階席は傾斜も緩やかすぎ、お世辞にも観やすいとは言えない。屋根で覆われていないことから一体感も感じられず、試合の熱気がぼやけることも多い。

 改修後はピッチへの角度もつき、屋根もできるため、サポーターの声も反響し上から降りかかってくる。より観やすく、熱狂がダイレクトに肌に伝わるスタジアムになるだろう。

 マッチデー以外の時間も熟考した。試合が行われるのはリーグ戦とチャンピオンズリーグなどのカップ戦を含めても、多くて週に2度だ。目指すのはマッチデー以外にも住民がカンプノウを利用できる環境作りだ。

「考えているのは二面性です。カンプノウを、普段は公園のような場所として試合のない時に地元の人々や観光客に楽しんで利用してもらい、試合の時には戦いの場所、熱を伝える場所にする。そんなふたつの姿を見せたいですね」

「タイムレスなものを創りあげたい」

 始まった新カンプノウ・プロジェクト。

 日本の建築設計事務所がサッカー界を代表するスタジアムの改修を成功させれば、今後の受注にもつながるだろう。

 ピッチ外で、日本サッカー界と欧州サッカー界にある距離を縮めるきっかけになる可能性も秘めている。

 勝矢は言う。

「目先ではなくタイムレスなもの、流行を超えたものを創りあげたい。カンプノウができてから60年。新しくなったスタジアムも半世紀後の人々にも受け入れられるようなものになるといいですね」

 完成した頃、まだメッシがピッチに立っていればいいんだけどなあ。

 伊庭野がつぶやいた。

 彼らはプロフェッショナルな建築家であり、何よりもサッカーを愛するファンでもある。

 オフィスの入り口には、新カンプノウの模型が置かれてある。自分たちの手で描いた未来のスタジアムを、男たちは愛情と使命感に満ちた柔らかな瞳で見つめていた。

©iStock.com
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