シーズン後半戦すぐに突如判明した左精巣ガンの疑いで摘出手術を受けた大関友久が、わずか術後39日でマウンドに帰ってきた。
9月10日、タマスタ筑後で行われた三軍交流試合の関西独立リーグ選抜との試合に先発。1イニングを13球であっさりと三者凡退に抑えた。ストレートの最速は145キロを記録した。
「無事に実戦も迎えられて順調というか、早いくらいだったかなと思います。すごくいい気持ちだし、順調です」
大関はいつものイケボで、笑顔でそのように振り返った。
マウンドに上がった際は特別な“儀式”などは行わず、普段どおりに打者と立ち向かった。むしろ、復帰登板を見守っていた周りの方が、あふれる感情を抑えるのに精いっぱいだった。大関の名前がコールされると約270名の観客だったが、それ以上の人数が集まったような大きな拍手が沸き起こった。小川史三軍監督も「なんかジンと来ちゃったよね。本当によかったよ」と感無量。広島から駆け付けたという女性ファンはぽろぽろと涙を流して泣いていた。
手術を受けたのはオールスターから1週間後のことだった
大関は育成ドラフト2位で入団して3年目の24歳。昨年5月末に支配下入りし、今季は開幕ローテーション入りを果たすと3月31日のロッテ戦(ZOZOマリン)でプロ初先発、7回途中1失点で見事プロ初勝利を飾った。前半戦を終えた時点で6勝5敗、防御率2.70。うち2つの白星は完封勝利で飾った。有資格であるパ・リーグ新人王の有力候補と目され、さらには活躍が認められてオールスターゲームにも監督選抜で選ばれた。
そのオールスターではなんと、栄えある第1戦の先発投手を任された。これには本人も驚いていた。
「オールスターの2日前に球団マネジャーから連絡があったんですけど、第1戦に投げるという部分だけ読んでいて『先発』の文字を見落としていたんです。すると翌日に広報から『明日の第1戦先発の意気込みのコメントをよろしく』と言われて、その時に初めて知りました(笑)。まさか、自分が第1戦先発だなんて……」
1回1失点だったが、現役最強打者・村上宗隆(ヤクルト)は高め150キロ直球でセンターフライに仕留めてみせた。
夢の球宴のマウンドは7月26日のこと。
ガン疑いで手術を受けたのはたった1週間後の、8月2日のことだった。
球団から発表があって我々がその事実を知ったのは翌3日。その時点では腫瘍が良性なのか悪性なのかは検査中だった。その後18日にようやく「摘出された腫瘍を病理解剖した結果、腫瘍以外にがん細胞が入っていないことが確認された」と球団を通じて明らかにされた。
「思い返すといろいろ考えることが多くて。何を思ったか、はっきりコレだっていうのはちょっと分からないですけど、いろいろ不安になったタイミングもありましたし、考えすぎてちょっと余裕がなくなった時期もありました。そういうのは多少なりともあったんで」