スゴいところ(3)「実は東京五輪の銀メダリスト」
2014年からはマイナーで外野も守るようになるキブレハンは、2015年オフに他の2選手と共にテキサス・レンジャーズにトレードされる。この時の交換相手がのちに日本ハムに入団するアンソニー・バース(現ブルージェイズ)と、現ロッテのレオネス・マーティン。メジャーではよくある話だが、トレードが成立した時点ではキブレハンの名前はなく「後日発表選手」となっていて、移籍が決まるのはそれから2週間余り経ってから。やはり「遅れてきた男」であった。
メジャーデビューはサンディエゴ・パドレスに在籍していた2016年。その後はマイナーのみも含め5球団を渡り歩き、2021年にパドレスに復帰すると、その夏に開催された東京五輪に米国代表として出場する。ただし、彼が試合に出たのは全6試合中、ノックアウトステージ敗者復活戦のドミニカ共和国戦だけで、7番レフトでフル出場したものの3打席3三振、守っては1失策という結果に終わっている。
米国はその後も勝ち上がって決勝戦に進出するが、村上宗隆に先制ホームランを打たれるなど日本に敗れて準優勝。試合後の表彰式でキブレハンの首に銀メダルをかけたのは、DeNAでプレーするタイラー・オースティンだった。同じく米国代表のスコット・マクガフとは、現在はヤクルトのチームメイト。来日前は毎日のようにメッセージを送っては野球に関することから生活面までさまざまな助言を仰ぎ、今も「スコットのことは本当に頼りにしている」という。
スゴいところ(4)「来日初アーチ含む1試合3本塁打!」
今シーズンはシカゴ・ホワイトソックス傘下のマイナーAAA級で開幕を迎え、3試合で12打数5安打、2本塁打と打ちまくりながら直後に解雇。そこで獲得に動いたのが、サンタナが左半月板のクリーニング手術を受けたばかりのヤクルトだった。
来日は5月下旬。ファームでの調整を経て7月に一軍に昇格したものの、ヒットを打てないまま降格。それでも「必ず一軍に戻ってくるというのをモチベーションにして、(二軍の本拠地である)戸田のメンバーに支えられながら」8月に一軍に復帰すると、20日の中日戦(バンテリンドーム)で来日初ヒットを含む2安打、翌21日の同カードでは3安打を記録した。
圧巻だったのは27日のDeNA戦(横浜)で、前述の中日戦に続いて3度目の2番レフトで出場すると、第2打席の来日初本塁打を皮切りに3本のアーチを含む4安打の大暴れ。横浜スタジアムは東京五輪で金メダルを逃した場所でもあり、決勝戦でホームランを打った村上に「ここは"ダメフィールド"だな」と冗談交じりに話したこともあったというが、その地で人生初という1試合3ホーマー。試合後のヒーローインタビューでは「一生忘れられない日になった」と喜びを噛みしめた。
キブレハンの獲得に当たって奥村部長が「リグスに似たタイプ」と話していたのは前述のとおりだが、2番バッターとして活躍する彼に「バントをしない2番」だったリグスの姿を重ね合わせたファンも多かったようだ。思えばヤクルトのラインナップに3人の外国人野手が並ぶのは、そのリグスに加えてアーロン・ガイエル、アレックス・ラミレスがいた2007年以来のこととなる。
来季の契約は果たして……
一方でレフトの守備ではフライに対して目測を誤るなど「スゴくないところ」を露呈。すると試合前の練習で自身のフリーバッティングが終わるや、佐藤真一外野守備走塁コーチに付き添われながら、繰り返しノックを受ける姿も見られた。獲得が決まった際、髙津臣吾監督は「すごく性格も良くて、すごくマジメでっていうところは聞きました」と話していたが、その一面が垣間見えるシーンだった。
もっとも、もともとはあくまでも離脱したサンタナの穴埋めを期待されて入団した選手である。来季も生き残れるかどうかは、今後にかかっている。昨日、9月12日のDeNA戦(横浜)では3打数ノーヒットだったが、これからのシーズン最終盤、そしてポストシーズンで「遅れてきた男」のスゴいところを見せてもらいたい。頑張れ、キブレハン!
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