俳優や映画監督による性加害が報道されるのは、今年に入って何度目だろう? もはや、映画やドラマを取材するライターとしても「私はただ彼らを取材したことがあるだけですから」という無責任なスタンスは取りづらくなってきた。取材者は、そして、マスコミ媒体はこの問題に対してどういう対応をすればいいのか、考えてみたい。
事実を知ったときの感想は「もったいない」
仕事で香川照之にインタビューしたことはあるものの、立場はテレビドラマを見ている視聴者とそれほど変わらない。テレビカメラが回っていないところで、少しだけ直接、話をしただけに過ぎない。
ゆえに今回、彼が3年前に銀座のクラブでホステスのブラジャーをはぎとったり、直に胸を触ったりしていたという「週刊新潮」のスクープ記事を読んだときも、多くの視聴者と同じようにショックを受けた。
「香川さんがそんなことをする人だとは思わなかった」と。正直、こうも思った。「これだけのキャリアを築いた役者が、このスキャンダルで消えてしまうのだろうか。もったいない」。
その数日後、歌舞伎座でコロナ感染による休演から復帰した彼の息子・市川團子の舞台を見て、共演の市川染五郎に勝るとも劣らない魅力と稽古量に裏付けられた柔軟な芝居に感動し、「父親のスキャンダルが前途ある歌舞伎役者である團子に影響しなければいいが」と心配もした。
この第一報の時点で、私の意識は被害者である女性より、加害者である香川に向けられている。取材で会ったことがあり、テレビや映画を通してよく顔を見ており、俳優としての力量も知っているだけに、顔も知らない被害者より「彼の立場」を考えてしまった。しかし、本来なら、私は被害者の女性に共感を示すべきなのだ。
ネット上でも「香川さんのしたことは許せない。ひどいセクハラだ」と非難する女性が多かった一方で、少なくない男性と一部の女性が「被害者はホステスなんだから、それぐらいは許容範囲では」といった意見を述べた。これは完全に職業差別だ。
また、「香川さんは仕事が忙しくて疲れていて、セクハラでストレス発散してしまったのでは」「お酒が入っていたから仕方ない」といった擁護もあった。
しかし、ブラジャーを外す、胸を触る、キスをするという行為は、セクハラやわいせつというより性加害といったほうが正しいし、法務省のサイトでも読める分かりやすい資料「性犯罪加害者の理解と対策」(聖マリアンナ医科大学神経精神科学教室・安藤久美子准教授)によれば、性犯罪者はホステスのような「より弱い者、抵抗しないであろう者を選ぶ」ものであり、相手を選んでいるということは、たとえ酔っている状態だとしても、「性的欲求は衝動的でコントロール不可能」というのは誤解だという。