取材してわかった「香川照之の二面性」
筆者にとって恐ろしいのは、女性を攻撃して傷つける彼が、一方では取材の場で女性をリスペクトし敬愛する言葉を口にしていたこと。
香川は、数回インタビューした中の1回で、サスペンス作品で共演した20歳下の女性俳優を絶賛していた。彼女と心理戦を繰り広げる場面を演じたときのことを振り返り、「噂には聞いていたけれど、すばらしい女優さん。この場面でもいかんなくその才能を発揮されていたと思う」と、その場に彼女はいないのに敬語を使いながら語っていた。
筆者もかねてからその俳優は天才だと思っていたので、香川さんほど年上でキャリアがあり演技力の高い人でも舌を巻くほどなのだなと思い、強く印象に残っている。そのとき語った彼の気持ちが嘘だったわけではないだろう。とても女性を見下す男尊女卑思想の持ち主とは思えなかったが、その彼が一方では、ホステスの女性を辱めていたわけである。その二面性がなんとも恐ろしい。
思い出した「木下ほうか」の事件
実は、こういった怖さを感じたのは2度目だ。2022年3月31日号の「週刊文春」で2人の女性俳優からレイプなどの性加害を行ったとして告発された、木下ほうかにも同じ思いを抱いた。
数年前にインタビューした際は、旅番組で共演した芸人の女性の名前を挙げ、「同年代だし同じ独身だから気が合う。一緒にいて面白いし、僕は友人として彼女が好きなんです」と特にいやらしい感じもなく淡々と語っていたので、同性からの支持も厚いその芸人の良さが分かるぐらいなのだから、女性に理解がある人なのだろうと思った。
しかし、告発によれば、彼はその一方で、若い女性たちに対し無理やり性行為に及ぶという、相手を人とも思わないような卑劣なことをしていたわけである。性加害に軽いも重いもないかもしれないが、レイプというのはやはり情状酌量の余地はない“魂の殺人”であり、今回の香川のケースと並べるのは適切ではないだろうが、「まさかあの人が」という裏の顔が見えた瞬間の恐ろしさは似ている。
表の顔と裏の顔、営業用の態度と私生活での振る舞い、建前と本音という二面性があるのは当たり前じゃないかと言われても、その落差は恐ろしい。つまり、彼らの中には、自分と同等かそれ以上の能力や魅力を持つ尊重すべき女性と、自分の性的な衝動をぶつけてもいいと蔑む女性の2種類がいるわけである。
こういったアンビバレンツな女性観としては、よく「聖女と悪女」という言葉が使われるが、どうして女を2つに分けられるのかは理解できず、そういった男性の中で自分が聖女カテゴリーに入っていたとしても、いつ悪女に転落して傷つけられてもおかしくないという不安がある。