そして、始まった夏の県大会。ところが、初戦で、同じ県立校の奈良高校に思わぬ戦いを強いられた。熊田主将は、この試合が今大会の流れを作ったと明かす。
「途中まで1点差で、そこから逆転されて、流れが向こうにいきつつある中で勝てた(7-2)。あの試合で、耐えて耐えて後半勝負に持ち込む戦い方を身につけることができた」
北野監督も同じことを感じていた。
「山場は初戦の奈良高校戦でした。準々決勝の橿原戦(延長10回、5-4)では、追いつかれて延長までいきましたが、選手たちの表情を見ていたら大丈夫だなと確信しました。余裕がありましたね」
準決勝の相手は昨年夏、全国準優勝の智弁学園だった。試合は、序盤リードを許した生駒が追い上げる展開となった。4-5で迎えた7回裏、生駒は3点を奪い、7-5で逆転勝利した。
夢の甲子園まであと1勝。決勝の相手は、夏29回目の甲子園出場を狙う名門・天理だった。メンバーの中にはドラフト候補と注目される選手もいる。ただ、智弁学園を倒し、初の決勝進出を果たした“県立の星”生駒には勢いがあった。準決勝の翌日、その次の日の決勝に備えて、午後1時から練習が予定されていた。
まさかのコロナ感染…12人を入れ替えての決勝へ
「発熱者がいるらしいという報告がキャプテンからあがってきた。最初はコロナより熱中症の可能性を考えました。症状もそれぞれ異なっていたんです」(北野監督)
発熱した選手は、病院で診察を受けてもらった。
「一人、また一人とコロナ陽性が判明してきた時は、決勝は諦めようと思いました。諦めるというより、出場してはいけないと。天理高校さんに迷惑をかけてはいけない。ただ、高野連の公式ルールでは、出場することはできる。随分悩んで葛藤しました。最終的には、私がある程度(出場するという)決断をして、キャプテンに部員たちの意見を聞いてもらった。それで、皆が出ると決めたので、次の日、検査をして陰性の者だけで戦うことに決まりました」
準決勝の登録メンバー20人から12人を入れ替えて、決勝戦に臨むことになった。天理には、今年の春季大会で2-12と敗れている。にもかかわらず、レギュラーメンバーで出場できたのはわずか3名。熊田主将はこう振り返る。
「ここ1カ月は大会に向け、出場選手たちだけで練習してきていました。そこから半分以上抜けてしまった。正直、ショックでものすごく悲しかった。それでも新しく入ってくれた1年生や2年生が、目の色を変えて『頑張る』と言ってくれた。まずは試合をさせていただけることがありがたかったので、無理やり切り替えて試合に臨みました」
北野監督が続ける。