9月11日、この夏の「甲子園行き」を懸けて全国高校野球選手権奈良大会の決勝を戦った、天理高校と生駒高校の“再試合”が実現した。

 準決勝で智弁学園を破って奈良大会の決勝に進んでいた生駒高校は、前日にベンチメンバーの半数以上に新型コロナ感染が発覚。1年生を含む12人を入れ替えて戦うことを余儀なくされた。結果は0-21の大敗だったが、この時に話題になったのが、勝利した天理高校がグラウンドで優勝を喜ばない姿だった。今回の再試合も、ベストメンバーで決勝を戦えなかった生駒高校に、天理高校の中村良二監督が提案したことで実現したという。感動の決勝を伝えた「週刊文春」の記事を再公開する(初出:2022年8月11日号、肩書きなどは当時のまま)。

◆◆

ADVERTISEMENT

 全国13万人に及ぶ高校球児たちの夢、夏の甲子園がいよいよ開幕を迎える。今年の夏、猛威を振るう新型コロナウイルス・BA.5は高校球児たちを翻弄した。

 0-21。奈良県大会決勝は、決勝ではほぼ見ることのない大差となった。勝者は夏2度の全国優勝を誇る名門・天理高校。敗れたのは、県立生駒高校。大差がついたのは、生駒がスポーツ推薦もなく、春夏ともに甲子園出場経験もない、まったく無名の県立高校だったからではない。BA.5によって、ベンチ入りメンバー12名の変更を余儀なくされたからだった。「生駒高校の夏」は、どう終わったのか。監督、選手に聞いた(全2回の1回目/#2「負けた側はどれほどの地獄か」甲子園に行けなかった奈良・生駒高監督が涙した天理の”誠意の整列”と万雷の拍手 へ続く)。

◆◆◆

練習時間は2時間「長くダラダラした練習は意味がない」

「智弁学園さんはやっぱり奈良の主役ですから。とりあえず主役に勝たないといけないと。勝ってからは“あと1勝”、甲子園が見えてきましたね」

 そう振り返るのは、生駒高校野球部の北野定雄監督。県立の斑鳩高校(現・法隆寺国際高校)や登美ヶ丘高校で監督や責任教師を務め、それぞれのチームを2度の県大会準優勝、春の予選大会優勝に導いた。2012年から生駒を率いて、今年で10年になる。

 独特なのが、強豪校に比べると幾分短く感じる2時間という練習時間。

「(2時間という時間は)文科省が出している基準なので、決められたことはキッチリ守って、やっていこうというのが我が校のスタイルでした」(北野監督)

 しかも、メニューは生徒にほぼ任せている。生徒が自分たちで見つけた課題を、どう時間内で打開していくかに意味があるのだという。

 熊田颯馬主将が語る。

「(2時間は)基本自主練です。2時間は短いように聞こえますが、土日の練習試合で見つけた課題を平日の2時間の練習でどれだけ密度濃くクリアできるか。短い時間でいかに改善できるかを目標にして、それがモチベーション維持に繋がっていました。長くダラダラした練習をしても意味がないので」

生駒高校野球部・熊田颯馬主将

スローガンは「私学を倒す」 昨夏準Vの智弁学園に勝利

 掲げたスローガンは「私学を倒す」。

「これまでは公立の強豪校を倒せても、私立には歯が立たなかった。苦しんできてようやく今年の春ごろから私立にも勝てるようになったんです」(北野監督)