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《再試合が実現》「負けた側はどれほどの地獄か」甲子園に行けなかった奈良・生駒高監督が涙した天理の”誠意の整列”と万雷の拍手

《再試合が実現》「負けた側はどれほどの地獄か」甲子園に行けなかった奈良・生駒高監督が涙した天理の”誠意の整列”と万雷の拍手

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 出られなかったチームメイトとも試合後にテレビ電話を通じて言葉を交わした。「お疲れ様」「やっぱり天理は強かったな」。生駒高校の快進撃は、甲子園までは続かなかった。

 対戦校である天理は、生駒への最大のリスペクトを示した。甲子園行きが決まった瞬間もマウンドに集まらず、すぐに整列したのだ。

 この時のことを聞くと、北野監督は「天理高校の生徒も本当に立派でした。本当に、本当に……」と言うと、涙を滲ませた。

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 試合が終わり、生駒の選手が送り出される時、球場には万雷の拍手が鳴り響いた。

「これまでいろいろなチームで監督をしてきましたが、あんな拍手はこれまで聞いたことがなかったです。私は監督人生で、過去に夏の県大会決勝で2度負けたことがあるんですが、負けた側はどれほどの地獄か……。相手の喜びを見るのは、傷口に塩を塗り込まれるくらいキツい。ここまで子供たちが苦しい思いをするのかと思ったこともあります。だから、天理側の応援席からも拍手をいただいたことには本当に感謝しかないです」(北野監督)

 悲願の優勝はならなかった。快進撃から一転、コロナによる大敗。北野監督は、何を感じたのか。

生徒が苦しみながらも身に付けてくれた“2つのこと”

「やっぱり、人生においては受け止めて前を向くことがとても大切だと思うんです。『すべてを受け止める』という姿勢をかねてからチームに浸透させてきました。 今回は『これが最後の試練か。ここまできたか』と正直思いましたね(笑)。みんなとこれを乗り越えよう。それしかなかったですね」

 生駒は、北野監督の母校でもある。

「赴任した時から、先々へ受け継がれる伝統を作りたいと常に思っていました。代々、受け継がれるような一本通った芯を作りたかった。それが、『逃げないこと』『試練を受け入れること』の2つです。特に、このチームには強く求めてきて、この子たちは苦しみながらも身に付けてくれたと思います」

 熊田主将は後輩たちにこう伝えた。

「今の後輩たちは一人一人、他人への思いやりがすごくある。苦しい時でも助け合えると思っています。ですが、それが甘さを生まないように引き締めようと話しました」

 北野監督は、こう前を向く。

「あとは甲子園という山だけ。後輩たちが必ず越えてくれると信じています」

〈#1から続く〉

撮影:杉山拓也

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