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「巨大ヒグマがダダッと駆け降りて『グワァ』と…」4回ヒグマと遭遇した“ハンター御用達”職人が最も危険を感じた瞬間

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2022/09/25

genre : ニュース, 社会

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「撃てるハンター」と「撃てないハンター」の違い

 山崎のもとには、日本全国から腕に覚えのあるハンターが集まってくる。そこであえて訊いてみた。ヒグマを「撃てるハンター」と「撃てないハンター」では何が違うのか――。

「それはもうハッキリしてます」と山崎は即答した。

「山を知ってる、クマを知ってる、(山を)歩ける。この三拍子がそろってないと、いくら射撃技術が高くてもヒグマはやれない。『ヒグマを撃ったことがある』という人でも、そのほとんどは、エゾジカなんかを追っているときに、たまたま出くわして、撃ったら獲れちゃったという偶発的なケースです。そうではなく、山に残されたクマの痕跡を見て、その行動を分析・予測して、追いかけて先回りして仕留める、いわゆる『忍び猟』が出来るハンターは、日本でもそう多くはいない。私が直接知っているのは、そのうち10人ほどです」

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 その中でも「あいつはちょっと別格」と評するのが、標津町のハンター、赤石正男である。赤石はこれまで120頭以上のヒグマを仕留めた“現役最強”とも噂されるヒグマハンターで、私も何度か取材したことがある。そのことを知っている山崎はこう尋ねてきた。

山崎氏が「アイツは別格」と語る“現役最強”のヒグマハンター、赤石正男氏

「伊藤さん、赤石に会ってどう思った?」 

 どこまでも淡々と――それが私の赤石に対する印象だ。例えば「これまで獲ったクマで一番手強かったのは?」という気負った質問には、「そんなのいねぇな。どれっちゅうことないんだ。いつでも獲るから」という一言で返される。呆気にとられつつも、ハッタリをかましているわけではなく、それが本心から出た言葉であることは、すぐわかった。

「ハハハ、そうですか。あいつは合理主義者なんですよ」と山崎も頷く。

「相手がクマだからシカだからといって、目の色を変えて撃つということがない。極めて淡々と撃つべきときに撃つ。傍から見ているとすごく簡単に獲っているように見えるんだけど、その裏には相当緻密な計算がある。それは天性のもので、僕の目から見ると、アカは生まれながらのハンターなんです。後にも先にもあんなヤツは見たことない」