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目に見えないものを撃つ男

 あるとき、山崎は赤石と猟に出掛けた。すると、2人から30〜40m離れた藪の中から、シカの鳴き声が聞こえてきた。だが山崎の目には、その姿までは確認できない。すると赤石が「ほら、そこにいる。眼見えるべや。枝の間に眼がふたつ」。山崎が苦笑する。

「そんなこと言われても、『えーっ!?』だよね。オレには全然見えない。だから『アカ、見えるなら撃てよ』と言ったら、『身体がどっち向きかわからないから、動くまで待つ』と言うんだ」

 じっと待つこと40分。ついにシカがしびれを切らしたように走り出した。山崎の眼には「200mぐらい先を走るシカの角の先がチラっと一瞬見えただけ」だった。だが――。

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写真はイメージ ©iStock.com

「あいつは、それを撃ったんですよ。直後にザーッと重いものが草の上を滑って笹薮の中に落ちていく音がした。『どこ撃った?』って訊いたら『クビ』っていうんですよ。全力疾走しているシカですよ。『本当かよ?』とこっちはまだ半信半疑でした」

 藪の中を確認すると、まさにクビを一発で射貫かれたオスのエゾジカが絶命していたのである。

「僕には角の先が一瞬見えただけでしたが、赤石のイメージの中では、シカがどうやって笹薮を全力疾走で下っていくのか、その明確な映像(ストーリー)が見えているとしか思えない。実際に目には見えていなくとも、その自分のイメージの中のシカを絶妙なタイミングで撃てば、実際にシカが倒れている。こんなことできるの、他にいませんよ。なんせ冬眠しているヒグマを叩き起こして獲るヤツだからね(笑)。

 あいつの場合、山に残されたヒグマの足跡を見ただけで、『ああ、あのクマだな。だいたい何日後にあそこ通るな』ってわかる。一見ボーッとしているように見えますが、そのノウハウたるや凄まじいものがあります」

 銃と射撃のスペシャリストだからこそわかる、稀代のハンターの真骨頂といえるだろう。

写真はイメージ ©iStock.com

「最近じゃ、ヒグマの生態もだいぶかわってきました」

 地元猟友会に所属し、近隣にヒグマの目撃情報があると出動して対応する立場にある山崎は、近年のヒグマについて「ある変化」を指摘する。

「最近はね、子熊を3頭連れた母熊がやけに多いんですよ。昔はこんなにいなかった」