日本シリーズの季節になると、ベイスターズファンは目の前の熱戦に夢中になりつつも5年前のあの日がつい頭をよぎってしまう。2017年、CSを勝ち上がってようやく辿り着いた、日本一を決めるホークスとの熱戦を。

 11月4日、2勝3敗で迎えた福岡での第6戦。0対1の5回表、先頭で打席に立った白崎浩之が振り抜いた打球はレフトスタンドにまっすぐ飛び込んでいった。シーズン打率.185、本塁打0の男のまさかの同点弾に、青に染まった福岡のベイ応援席が、パブリックビューイングが行われているハマスタが、テレビやラジオの前の全国のベイ党が歓喜の渦と化した。勢いづいた打線はその後もヒットを連ねて3対1。これで3勝3敗。明日は最終決戦だ―。

 それは、何とも儚い夢だった。

ADVERTISEMENT

 あの試合、一瞬だけでも最高の夢を見せてくれた白崎さんは今シーズン限りでの現役引退を表明した。ベイスターズとバファローズで8年、独立リーグ・大分B-リングスで2年、計10年のプロ生活を終えた彼は、いま大分の地で穏やかな日々を送っている。

2017年日本シリーズ第6戦、同点のソロ本塁打を放った白崎浩之 ©時事通信社

正直なところ“次も打てるだろうな”と思っていました

「日本シリーズのホームランのことは色んな方に聞かれるんですけど、まずあの試合、僕がスタメン入りするとは周りも僕自身もまったく予想してなかったんですよ。

 当時は打撃練習の時点でその日のスタメンがボードに書かれていたのですが​、シリーズ第6戦の前は7番DHが空欄になっていた。でもそれまでは細川(成也)やニコ(乙坂智)がDHで起用されていたので、“今日はラミちゃん(A・ラミレス監督)もどちらにするか迷ってるねえ”ぐらいに考えていたんです。

 そしてシートノックに行く直前に何気なくボードを見たら、その空欄に僕の名前がある。“マジで?”ってびっくりですよ。で、とりあえず気持ちを落ち着かせようとロッカーに引き返したところにカジさん(梶谷隆幸)がいたので、“カジさん、俺スタメンだわ”って言ったらカジさんにマジかよ~!って爆笑されました」

 しかし白崎さんのバッティングの調子はCSから上々だったという。ラミレス監督もそこを買ってのスタメン起用だった。

「CSの頃からラミちゃんと顔を合わせる度に“必ずいい場面で使うからしっかり準備しておいてくれ”と言われていて、ベンチにいても気持ちは切らさずにいました。でもまさかあの状況で出番が来るとは思っていなくて……。

 そんなこんなで緊張する暇もなく試合に入ったのですが、後になってラミちゃんに聞いたら、“あの試合でスタメン起用することは前から決めていた。でも先に伝えると君が力むと思って、あえて直前にボードに書いたんだ”って。そのあたりはさすが、選手をよく観察している監督さんでした」

 白崎さんは2回表、1死2塁のチャンスで最初の打席に入る。大舞台でのスタメン起用。何としてでも監督の期待に応えたかった。

「もう、死にもの狂いで打つつもりでした。本当の意味で気持ちが入っていたし、カウント2-2と追い込まれても絶対食らいついてやろうと。それで、何とかバットの先に当ててライト前に運ぶことができたんです。

 それぐらいの覚悟で挑んだ打席だったので、僕としては、実はあのホームランよりも1打席目のヒットの方が強く印象に残っているんですよ」

 続く2打席目。1打席目のいい感触を残したまま迎えられたという。

「2打席目は気分的にも大分落ち着いていて、正直なところ“次も打てるだろうな”と思っていました。最初に変化球を2球放られて、2ボールからの3球目。相手の東浜投手は、僕がストレート狙いで強振してくると見越して小さく変化する球を投げてくると読んでいたのですが、狙い通りのカットボールが来たので素直に身体が反応してくれた。相手の配球も冷静に読めましたし、無心で打てたホームランでした。

 ベースを一周してベンチに戻ったら、ラミちゃんはじめベンチのみんなが興奮しながら出迎えてくれるし、その後勝ち越したときはカジさんからボソっと“このままいけばヒーローインタビュー、あるんちゃう?”って言われたのをよく覚えています。お前DHなんだからお立ち台で喋ることちゃんと考えておけよって(笑)。カジさんらしいですよね」