毎年1年契約。来年の保証はない。新しいことにも常にアジャストしていかなければならない。年齢を重ねれば重ねるほどフレッシュさはなくなるが、経験の積み重ねがモノを言う場面もある。自分のこだわりだけでは生きていけず、チームの方針に従いながら個性を出してゆく。きょうも1、2回“振り”を確かめたら、呼吸を整えその時を待つ。

 あ、これは、プロ野球選手のことではありません、私の仕事の話です。

 気象キャスターの檜山靖洋です。気象キャスターは1年ごとの契約更新です。FA宣言はありません。気象業界では「3年季節をめぐって一人前」などと言われます。天気予報は経験の積み重ねだからです。育つまでは大変、でも豊富な経験が強みになる、キャッチャーみたいですね。

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天気にも青柳投手のような難敵が!? その攻略法は?

 毎朝試合……番組は5時からですが、2時から練習……仕事に入ります。まずは敵……ではなく、天気を知るための情報収集と分析をします。様々なデータを見て、きょう対戦する敵の……きょう解説する天気のポイントを決めていきます。

「北東気流」という関東特有の予報が難しいパターンがあります。曇ると思うと晴れになり、晴れると思うと曇りになる。時には雨まで降ってしまう。裏をかいても私の予報と逆の結果になることが多く、毎回苦労します。例えて言うなら、難敵、阪神の青柳投手のような。予報になくても雨まで降らせてしまうところまで雨柳……いや青柳投手みたいだと感じます。

 天気予報を外したり、私の解説とは違う天気になったりしたときは、試合後に特打……放送後に天気の解析をやり直し、反省会をすることが唯一の攻略法です。

気象解説のスタイルも、宮﨑選手や佐野選手のように

 解説する内容が固まったら、ディレクター、デスクと打ち合わせ、放送用の画面を組んでもらい、新しく作る必要がある画面はCGを作ってもらいます。その間、アドバイザーの予報士からは、最新の情報が更新されたら伝えてもらい、画面に間違いがないかチェックしてもらいます。みんなの力が結集したところで、最後に気象キャスターの出番です。活かすもころすも気象キャスター次第。そういう意味では、ほんの少しだけクローザー山﨑康晃投手の気持ちになります。

 いよいよ本番。バットを……差し棒を持って、スタジオのポジションに着きます。1回、2回素振りを……ではなく、相手のアナウンサーへの“振り”を確認し、呼吸を整え、プレーボール後の初球を……いや、キューを待ちます。

 最初の打席の最初のスイング……最初の出番の最初の発声を大事にしています。「おはようございます!」が気持ちよく言えるかどうかで、私自身も、視聴者のみなさんにとっても一日が決まるような気がしています。一時期「おはようございます」で噛んでしまうことが続きました。余計な力が入り、「おはようございます」がうまく言えなくなりました。あれはもう軽いイップスでした。

 気象情報の持ち時間は3分とか2分とか、あらかじめ決まっています。でも、生放送なので、前後の関係で変わることもあります。本番中にしゃべりながら時間を調節することもあります。3分で用意したものを2分半でしゃべるとなると形は崩れます。でも放送上は、なんとかきれいにおさめます。フォームを崩されてもヒットにする宮﨑選手のように。

 番組には、もう一人の気象キャスター、近藤奈央さんがいます。7時半ごろの気象コーナーでは、まず、私から「ソト……外の近藤さん!」と呼びかけ、近藤さんが外から中継で伝え、そのあとさらにスタジオで私が解説するというリレー方式です。近藤さんは、時にはコスプレを、時にはダジャレを、時には小芝居をして、視聴者を惹きつけて楽しく分かりやすく伝えます。シュアなバッティングでチャンスを作り、自分でも試合を決める長打力も持っている、佐野選手のような存在です。

 “チャンス”を作って回してくれたときは、ディレクターの「巻きでお願いします」という指示が「“牧”でお願いします」に聞こえ、しっかり4番の仕事をしよう!なんて思います。