井上の中で何かが変わった?
この日、井上はベンチスタートだった。佐々木と古川の投げ合いはなかなか点が入らず淡々と試合が進んで行った。マリーンズがチャンスを掴んだのは2−2で迎えた9回裏。清田がヒット、どん詰まりだったがヒットエンドランを大嶺翔太が決めた。その後2アウトになったが二、三塁の大チャンス。打席に髙濱が向かいかけたが、呼び戻された。代打に出て来たのが井上だった。
何を隠そう髙濱ファンの私。髙濱の代打で出てくるんだから絶対打てよ! 打たないと承知しねぇぞ! とちょっと何とも言えない気持ちで井上の打席を見守っていた。
5球目、低めのチェンジアップを打ったが打球はショートの守備範囲に。スタンドからため息がもれかけたが、打球が速かった分、ショートに入った阿部がボールを弾いた。「走れ井上!」と言う声と悲鳴が方々から聞こえて来た。上述のようにランニングホームランの経験がある井上の脚だが、エンジンがかかるのが遅い。
阿部が投げる体勢に入った時、井上がベースのずいぶん手前から飛んだ。飛んだと言うよりは「頭からベースに突っこんだ」と言う表現が正しいと思う。その迫力に圧されたのか阿部の送球は中途半端な強さになり、井上の頭の方が先にベースの上を通過していった。サヨナラヒットだ。
チームメイトから祝福される過程で水をぶっかけられたため、寒そうにしながらヒーローインタビューでは「ヘッドスライディングは小学生以来」「(滑った瞬間は記憶にないので)気持ちが出た」と語っていた。あまりこれまでそんな言葉が出てこなかった井上。自信とかそう言うものではないなにかがにじみ出ていた。
そしてキャンプを経て、台湾遠征で代表チーム入りしていたチェンからホームランをレフトスタンドにかっ飛ばした。打球を引きつけて振り抜いた。やはりあれから何かが井上の中で変わったんじゃないか。パ・リーグTVの中継を見ながらそう思った。
11月23日、私はファン感謝デーであるスーパーマリンフェスタに行ってみたのだが、井上を見て驚いた。かなりほっそりしていたのだ。ステージの上で話していたのは食べ物の話だったが。これも報じられていた秋キャンプの猛練習の成果なのか。それとも2018年に懸ける決意なんだろうか。この姿が2月1日に変わらず見ることができたら今度こそ本物だ。これまで燻り続けていた火が一気に燃える時がようやくやって来る。
福浦、根元、細谷、大嶺、髙濱、香月、ルーキーの安田、そして恐らく入団するであろう新外国人とファーストのポジション争いは激しい。これまでも争いに遅れをとってきた。それでも井上はノってくるとランニングホームランを記録できるほど加速する。今度は脚だけではなく、バットでも成果を見せる時がきた。今度こそきっと結果を残せるに違いない。ファースト争いの後方から一気にマクレ! 2018年のアジャから目が離せない。
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