月刊「文藝春秋」の名物政治コラム「赤坂太郎」。2022年11月号「『ポスト岸田』3人の勝算と誤算」より一部を転載します。

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岸田首相は「何をしたいのか、さっぱり分からない」

「秋の日は釣瓶落とし」と言うが、この秋の内閣支持率も急落ぶりが激しい。首相の岸田文雄は、「今はとにかく我慢だ」と周辺を鼓舞しているが、これといった打開策もなく、自民党内には「何をしたいのか、さっぱり分からない」とのガスが充満する。こうなってくると蠢きだすのが、「ポスト岸田」を探る動きである。

 好位置につけているのは、デジタル相の河野太郎である。旧統一教会問題の嵐が吹き荒れる中、風向きを一気に変えられるポピュリストとしての能力を持つ人材は、河野しかいない。また昨年9月の党総裁選で支援を受けた前総理の菅義偉、元幹事長の石破茂らの支持も揺るがない上、所属する麻生派(52人)の支持がある程度まとまれば、一定規模の支持集団を構成できる。派内に総裁候補が見当たらない二階派(43人)の幹部も「菅さんとウチは連携していこうと話している。ウチは河野でまとまる」と明かす。

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河野太郎氏 ©文藝春秋

 一方、岸田は今回の人事で河野を抜擢した理由について、周辺に「河野さんは担当が幅広いポストにつけると問題を起こすが、デジタルに絞れば突破力を発揮するだろう。今はデジタル化を進めなきゃいけないから」と話していた。もちろん岸田としては自らの地位を脅かしかねない河野を閣内に抱え込み、動きを封じる思惑もあった。だが、河野は予期せぬ方向に動き始める。

 組閣翌日。祝日にもかかわらず、河野は秘書ら側近を集めた。ひとしきりデジタル庁について話した後、話題は旧統一教会問題に飛んだ。実は河野は今回の人事で、2015年の初入閣以来二度目となる消費者担当相の兼務となった。岸田がこの兼務に注意を払った形跡はなく、おまけでついてきたポストだった。しかし河野は、ここで独特の嗅覚を発揮した。

「大丈夫なのか?」岸田首相が“あるメンバー”を警戒

「前の消費者相の時はジャパンライフの問題に的確に対応できなかった。今回、霊感商法の問題はちゃんとやる」

 河野は大臣就任後初の記者会見で、いきなり「霊感商法に関する検討会」を消費者庁内に立ち上げることを宣言。さらに河野は検討会メンバーに弁護士の紀藤正樹を加えることに拘った。消費者庁内には「紀藤は消費者庁を相手に裁判をしている原告の顧問弁護士。避けるべき」と反対する声もあったが、河野は「それはそれ、これはこれだ。関係ない」と押し切った。

 慌てたのは官邸である。事前に知らされていなかった岸田は周囲に「大丈夫なのか?」と不安を漏らした。旧統一教会の問題を巡っては、法務省を中心とした「関係省庁連絡会議」を別途立ち上げていて、岸田周辺には河野の「スタンドプレー」(官邸関係者)に警戒感も強まっている。

岸田首相 ©文藝春秋

 前回の総裁選で河野を支持した閣僚経験者も「河野さんは国民受けを狙うのは得意だが、政治的な落としどころにもっていくのは苦手だ」と懸念する。防衛相当時に陸上イージス配備断念をぶち上げたが、その後混乱を招いたことは記憶に新しい。そんな河野が検討会をうまく導けるのか。メンバーの一人は「旧統一教会の解散命令の勧告に行きつくしかない」と意気込むが、検討会が消費者庁の立場でどこまで踏み込み、有効な対策を打ち出せるのか。そして検討結果を政府の方針に結び付けられるのか。ポスト岸田に向けた河野の評価に直結することになる。