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「治療中、仕事があってよかった」——柴門ふみ、乳がんを語る #1

柴門ふみさんインタビュー#1

2018/01/23
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手術後の病室で偶然聴いた、ZIGGY の「GLORIA」

──手術が終わっても、病理検査の結果が出るまでは心配ですよね。

 摘出した組織の病理検査の結果は、2週間後に出るので、それを見て術後の治療方法を決めましょう、と言われました。たとえステージⅠでも、5年以内に100人中1人か2人亡くなる、と言われ、「もしその1人だったらどうしよう」とか、「でも子どもたちも成人したし、描きたい漫画は描いたし、もういいか」。そんな風に悶々としていた時、ちょうど病室で見ていたバラエティ番組に、女芸人のいとうあさこさんが出てきて、ジギーの「グロリア」(ZIGGY 「GLORIA」)を歌い出したんです。

 

──「グロリア」!

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 そう、タレントがカラオケでお気に入りの歌を歌う番組だったんですが、いとうあさこさんが歌う前に、「ドラマ『同・級・生』の主題歌。原作・柴門ふみ! 我ら柴門世代! イェイ!」と言ってくれたんです。ジャカジャーンと前奏が流れ始めたのを聞いて、「こんな私を覚えていてくれる人がいるなんて! 生きなきゃ!」と思いました。

 それに、80歳過ぎた高齢の母を悲しませてはいけないし、頼りないけど心配してくれる子どもたちのためにも生きなきゃ、と思ったんですよ。入院中1回しかお見舞いに来なかった夫のことは、まあどうでもいいですが(笑)。気持ちを立て直せたのは、いとうあさこさんと家族のおかげですね。

「むしろラッキーと言ってもいいのかも」

──偶然、いとうあさこさんの番組を見られたことも、「強運」ですね。

 そうですね、病室のテレビで偶然、ああいう言葉を聞くことができたのは、ラッキーでした。しかも、手術してみたら進行性ではなく、薬がよく効くタイプのがんだったんです。リンパ節への転移もなく、摘出された腫瘍はわずか4ミリだったので、傷跡もほとんど目立たないんですよ。

 それに私、手術の1年前にそれまで入っていた保険を「がん特約」付きに切り替えていたので、多額の保険金・見舞金が入って。そう考えると、むしろラッキーと言っていいのかも。夫には「まるで保険金詐欺だな」とからかわれましたが(笑)。

 

写真=釜谷洋史/文藝春秋

さいもん・ふみ/1957年生まれ。漫画家・エッセイスト。夫である漫画家・弘兼憲史氏のアシスタントを経て、デビュー。代表作は、テレビドラマ化され、社会現象を生み出した『東京ラブストーリー』『同・級・生』『あすなろ白書』など多数。恋愛のエキスパートとして、数多くのエッセイも手がける。近著に『東京ラブストーリー After25years』など。現在「女性セブン」に『恋する母たち』を連載中。

「治療中、仕事があってよかった」——柴門ふみ、乳がんを語る #1

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