思わず背筋を正さずにいられないハードコア・アニメ
2月10日公開の『ぼくの名前はズッキーニ』は、これが長編1作目となるクロード・バラス監督作。長編といっても66分ですが、とても細やかに作られたストップモーションアニメであり、意外に重い設定とエモーショナルな物語は、この長さで十分満足できる内容です。
見た目は可愛らしいのに、主人公のズッキーニが母親を思わぬ事故で失い、養護施設に入る導入からして、思わず背筋を正さずにいられないハードコアっぷり。その後も施設の子どもたちを巡って、ウッとなる鋭利な設定が乱れ打ちとなりながら、カラフルな人形の可愛らしさで暗さが中和されています。そして全体に溢れるユーモアと慈愛。幅広い感情の要素に、心を激しく揺さぶられて息が苦しくなりそうな物語です。この充実した表現と語りは、他の実写映画と同様の心構えでぜひご覧いただきたいです。
『悪女/AKUJO』は体に食らう銃弾より心の傷が深く手負いとなる恋愛ドラマ
2月10日公開の韓国映画『悪女/AKUJO』は、とにかくアクションシーンの撮影がすごい! まず冒頭の7分に及ぶアクション場面は、ヒロインの主観映像によるワンカットの長回し。建物内の様々な部屋や階段を移動しながら、次々に襲い来る敵を倒していく圧巻の演出です。このロングカットはさすがに擬似で途中をCGでつないでいるものの、それでもある程度はワンカットで撮らねばなりません。さらに移動の仕方や、敵ひとりひとりの殺害方法にも創意工夫が凝らされていて、その段取りを考えると気が遠くなりそうです。中盤以降もバイク3台が猛スピードで並走しながら日本刀で斬りつけ合い、それをカメラがまたとんでもない至近距離で撮るという、何事かと呆気にとられるような迫力ある場面が続きます。
でもアクションだけではなくて、殺し屋として育てられたヒロインのスクヒ(キム・オクビン)と、不幸な生い立ちの彼女を引き取り、殺人を仕込んだジュンサン(シン・ハギュン)との愛の関係がとても複雑な情感に溢れていて、成熟したドラマともなっています。
スクヒにとってオム・ファタールであるジュンサン。彼女は優れた暗殺者となりながらも、内面には苦悩やためらいを生む愛の葛藤を抱えています。その横溢する感情がただのアクション映画として終わらない、ヴェルヴェットのような艶やかな深みとなっています。カンヌ映画祭で本作が評判となったのも、アクションの見事さだけではなく、体に食らう銃弾より心の傷が深く手負いとなる恋愛ドラマだったからでしょう。2月の寒さに似合う映画です。