その結果、(コロナ前は)日本の庶民には手の届かない名門ホテル・旅館や一流レストランにアジアの富裕層が殺到した。80年代は、ふつうのOL(死語)が週末の弾丸ツアーで香港に行き、5つ星ホテルに泊まってブランド物を買いあさっていたのだから、その栄枯盛衰には愕然とするしかない。
経済格差による怨恨があちこちで噴出
日本がどんどん「貧乏臭く」なっていく過程と、2000年以降の嫌韓・反中の排外主義の急速な広がりは見事に一致している。韓国や中国はそれ以前からずっと「反日」だったのだから、この変化は、「アジアで一番」という日本人の自尊心が揺らいだことでしか説明できない。
徹底的に社会的な動物である人間は、集団としての自尊心が低下すると攻撃的になるが、それと同様に、個人としての自尊心が揺らいだときもきわめて危険だ。経済格差が拡大すると、自分が虐げられていると感じる層が増えて、あちこちで怨恨(ルサンチマン)が噴出する。これは世界的な現象で、アメリカではトランプ現象を引き起こし、日本では「上級国民」批判となって表われた。母子が死亡した池袋の交通事故の炎上騒動はその典型だろう。
皇族の結婚問題にしても、ネットに掲載された記事へのコメントを見ると、その大半は「国民の税金で食わせてもらっているくせにわがままだ」という罵倒の類だ。これにもっとも近いのは、生活保護(ナマポ)受給者へのバッシングだ。
ネットでルサンチマンを噴出させている者が求めているもの
皇族とナマポに共通するのは、「働かずにうまいことやって暮らしている」ように見えることだ。それに比べて「下級国民」の自分は、不安定な身分とわずかな給料(あるいは年金)でかつかつの暮らしをしている。建前では「みんな平等」というけれど、生まれや制度の歪みによって、自分より恵まれている者がたくさんいるではないか、というわけだ。
脳は上方比較を「損失」、下方比較を「報酬」と感じるように進化の過程で設計されている。上位の者を引きずり下ろすことは、脳の報酬系を刺激し自尊心を高める効果がある。ワイドショーのコメンテーターといっしょに「義憤」に駆られ、ネットのコメント欄に皇族や婚約者母子への誹謗中傷を書き込むことは、ものすごく気分がいいのだろう。