ヒトは徹底的に社会的な動物で、家族や会社、地域社会などの共同体に埋め込まれている。しかしそこには、善意の名を借りた他人へのマウンティングや差別、偏見などが存在する。人間というのは、ものすごくやっかいなのだ。
ここでは、作家・橘玲氏が社会の残酷すぎる真実を解き明かした著書『バカと無知』(新潮社)から一部を抜粋。知能・能力が大きくばらつく社会の実態を紹介する。(全2回の2回目/2回目を読む)
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日本人の3人に1人は日本語が読めない?
集団ですぐれた意思決定をするための条件は、人種、民族、国籍、宗教、性別、性的指向などが異なるメンバーを集める多様性と、その全員が一定以上の能力をもっていることだ。このふたつの条件を満たすと、多様な意見が「化学反応」を起こし、とてつもないイノベーションが生まれる可能性がある。
ところが、自然に生まれる集団ではこれとは逆のことが起こる。
ひとは生得的に、自分と似た者に惹かれる性質があるので、アメリカのような多文化社会では、人種や民族、宗教ごとにコミュニティがつくられるが、知能や学力で選別するようなことはない。知識社会は産業革命以降に成立したので、そんなグループ分けをする本能は脳に埋め込まれていない。だからこそ有名大学やシリコンバレーのIT企業は、人為的な方法(入学試験や高報酬)で能力の高い者だけを集めているのだ。
その結果わたしたちは、なんの多様性もなく、知能・能力だけが大きくばらついている社会で暮らしている。これが、民主政を擁護するひとたちの期待に反して、「熟議」が混乱しか生まない理由だろう。
「読解力」「数的思考力」「ITスキル」を実際に調べてみた
では、知能はどの程度ばらついているのか。これについては「日本人の3人に1人は日本語が読めない?」として何度か書いたことがあるが、重要な「ファクト」にもかかわらずほとんど誰も触れようとしないので、ここであらためて述べておこう。
PIAAC(国際成人力調査)はPISA(学習到達度調査)の大人版で、OECD加盟の先進国を中心に、24カ国・地域の16~65歳約15万7000人を対象に、2011~12年に実施された(※1)。
ヨーロッパでは若者を中心に高い失業率が問題になっているが、その一方で経営者から、「どれだけ募集しても必要なスキルをもつ人材が見つからない」との声も寄せられていた。プログラマーを募集したのに、初歩的なプログラミングの知識すらない志望者しかいなかったら採用のしようがない。
そこで、失業の背景には仕事とスキルのミスマッチがあるのではないかということになり、仕事に必要な「読解力」「数的思考力」「ITスキル」を実際に調べてみたのだ。