日本人の6人に1人は偏差値40以下
PIAACに先んじて、アメリカでは仕事に必要な成人のリテラシーを計測するために、1985年、1992年、2003年に大規模な「全米成人識字調査」を行ない、「文章リテラシー」「図表リテラシー」「計算リテラシー」を調べている。その結果を要約すると、以下のようになる。
(1)アメリカの成人の43%は仕事に必要な文章読解力がない。
(2)同じく34%は仕事に必要な図表課題をクリアできない。
(3)同じく55%は仕事に必要な計算能力がない。
なお、この調査では学歴別の結果も調べており、高度な事務作業に必要な計算スキルをもつ成人は大卒では31%だが、高卒では5%、高校中退では1%しかいない。この「学歴(知能)格差」によって白人労働者層が仕事を失い、トランプ前大統領の岩盤支持層になった。
これらの結果は衝撃的だが、学力(偏差値)がベルカーブになることを考えれば当たり前でもある。
正規分布では、平均(偏差値50)から1標準偏差離れた、偏差値40~60の範囲に68・3%の事象が収まる。2標準偏差離れた偏差値60~70と30~40はそれぞれ13・6%、3標準偏差離れた偏差値70~80と20~30はそれぞれ2・15%だ。
日本では高い偏差値ばかりが注目されるが、人口のおよそ6人に1人は偏差値40以下だ。だがこのひとたちは、高度化する知識社会のなかで「見えない存在」にされている。
この現実になぜ気づかないのか
問題は、知識社会が(無意識のうちに)ひとびとの知能を高く見積もっていることだろう。
税務申告書から生活保護の申請まで、説明を読んで役所の書類を正しく記入するためには、偏差値60(MARCHや関関同立)程度の能力が必要になる。そうなると、自力で申請できるのはせいぜい5人に1人で、残りは(お金を払って)誰かに頼るか、あきらめるしかない。
この現実に気づかないのは、社会を動かしているのが高学歴のエリートで、自分のまわりにも同じような高学歴しかいないからだ。
ダチョウは、追いつめられると頭を砂に埋めるという(事実ではないらしいが)。「民主主義」を信じているひとたちも、それがうまくいかないと、「知能の格差」という不愉快な事実から目を背け、このダチョウのように、「資本主義批判」という砂のなかに頭を突っ込んで安心しようとするのかもしれない。
※1・・・国立教育政策研究所編『成人スキルの国際比較 OECD国際成人力調査(PIAAC)報告書』明石書店