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「反撃できない者を徹底的にいたぶる『集団リンチ』と同じ」皇族の結婚問題、生活保護受給者バッシングに“共通するもの”

『バカと無知』より #2

2022/11/30

genre : ライフ, 社会

note

 キャンセルカルチャーは、セレブリティの不品行を「正義」の名の下にバッシングし、その地位を「キャンセルする(奪う)」運動だ。そう考えれば、いま起きているのは皇族に対するキャンセルだ。ネットでルサンチマンを噴出させている者たちが求めているのは、上級国民の特権の剥奪、すなわち天皇制廃止ということになる。

皇室に対する風当たりの強さは今後も強くなるのでは

 その一方で、皇室に「理想の家族」を求める高齢者層の批判には、(かつては「欠損家庭」といわれた)母子家庭への偏見が垣間見える。だが近代の市民社会で、「親の借金問題を子どもが解決しないと結婚が許されない」などということがあっていいはずがない。

 王制や天皇制は、有り体にいえば「身分制」で、自由恋愛が当然とされるリベラルな社会ではきわめて不安定だ。ヨーロッパの王室もしばしばスキャンダルで炎上するが、アジアで孤立する天皇制は、それよりずっと脆弱だ。

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 皇室はいま、「わたしたちの夢を壊すな」という高齢者(および右翼・保守派)と、「特権は許さない」という「下級国民」からの激しい攻撃を浴びている。そしてこの風当たりは、今後ますます強くなっていくだろう。

 “平等”な社会では「主権者」である市民が絶対化し、政治家や官僚など「権力者」の地位はすっかり地に落ちた。次は皇族の権威が引き下げられて、「国民の下僕」としてしか存在を許されなくなるかもしれない。

 果たしてそのとき、天皇は「日本国の象徴」でいられるだろうか。

その他の写真はこちらよりぜひご覧ください。

バカと無知 (新潮新書)

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橘 玲

新潮社

2022年10月15日 発売

「反撃できない者を徹底的にいたぶる『集団リンチ』と同じ」皇族の結婚問題、生活保護受給者バッシングに“共通するもの”

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