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「その朝7時ごろ、納屋へ兄要太郎がおもむき、間もなく引き返して、きのう運んだ米を盗まれ、幸次郎が病気のためか倒れていると告げた。母マサとともに兄に従って現場に行ったところ、父があおむけに倒れていたので、驚いて近くに行き、数回呼んだが返事がなく、近所の人を呼んできて警察署に申し出た。父は言われた通り酒を好むが、祖母や母とけんかしたこともなく、平素仲良く暮らしていた」と供述した。

 裁判長から予審段階で殺害を自供した点をただされたが、あくまで認めず、なおも裁判長が血痕の付着した杵を示して追及したが、「父は米泥棒に殺された。悔しい」と起訴理由を否認した。

 要太郎も予審での犯行自供について「自分が殺したように申し立てたのは、祖母、母と弟を出獄させようと思い、心にもない虚偽の供述をした」と述べて犯行を否認。

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 裁判長から「幸太の供述と相違する点が多々あるのは、詳細に打ち合わせしなかった結果ではないか」と問われ「殺していないのだから打ち合わせする必要はない。こうした場所に出るのは初めてだし、6カ月も拘留されているのだから、言葉の相違くらいは当然」と答えた。

「図々しくも事実の全部を否認す」

 記事は「その図太さ、言語を絶せり」と書いている。ミタとマサについても「悪婆と毒婦」の中見出しを付けた。

 そのマサも、現場で見張りをしたり、血痕をふいたりした覚えはないと供述。最後にミタも「幸次郎が働かないといって嫌ったことはなく、時には口論もしたが、憎いと思っていたわけではない」「3人に幸次郎を殺せと迫ったことはない」と述べた。

 記事はここでも「図々しくも事実の全部を否認す」とした。検察の主張が正しいと考えたのだろうが、それにしてもひどい。

「本件のような残酷極まる犯罪は、世間広しといえども耳にしたことがない」

 この日の公判は、裁判長が弁護側の実地検証申請などを全て却下。検事正が「本件のような残酷極まる犯罪は、世間広しといえども耳にしたことがない。長く検事として奉職しているが、一家共謀して戸主を殺害する、まれにみる犯罪」と指摘した。

 その中で被告らの犯行を裏付ける証拠として、米泥棒に盗まれたとしていた米と縄が家の中で見つかったこと、そして、要太郎が隠していた血の付いた衣類が発見されたことを述べた。この血は新潟医学専門学校(現新潟大学医学部)教授の法医鑑定で大型のニワトリのシャモのものとされた。

 その後、論告に入り、解剖でも幸次郎の殺害方法が残酷と認められたと指摘。「天にも地にもただ1人の父を殺害したうえ、平然としていた」と要太郎、幸太、マサに死刑を、ミタに無期懲役を求刑した。それにしても、世間を騒がせた事件の実質審理が1回のみとは、と驚く。