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 だが、株主の目は依然として厳しい。12月の株主総会で藤田氏の再任に投じられた賛成票は約89%にとどまる。他の取締役候補はおおむね98%だったから一際目立つ。アベマに肩入れする経営戦略に冷たい視線が注がれている。W杯で手にした好機を生かせるか、藤田氏にとっても重要な局面である。

「超ワンマンの永守さんを無視できるわけがない」

 2022年11月5日、日本電産(永守重信会長兼CEO)は取締役会の諮問機関として指名委員会を設置した。社外取締役3人と社内取締役2人の計5人が委員をつとめ、委員長には社外取締役の1人が就任する。

 指名委員会の設置目的は、「取締役や執行役員の選任方針、候補者のリストの決定において社外取締役の適切な関与・助言を得ることで、経営の公正性、透明性を担保。コーポレートガバナンス(企業統治)体制の充実を図る」と説明している。

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 この指名委員会における最大の任務は、次期社長人事に他ならない。2023年4月までに社外取締役の指名委員が候補者と面談し、まず5人の副社長を決める。その5人のうちから2024年4月に社長が選ばれる予定だ。

日本電産の永守重信会長 ©時事通信社

 社内取締役から指名委員に就任したのは永守会長と小部博志社長の2人だが、3人の社外取締役の名前を同社は公表していない。指名委員長には佐藤慎一元財務次官、残る2人には元官僚や大学教授の名前が囁かれる。

 だが、「指名委員会設置は、あくまで株式市場に対する透明性のアピールだろう。超ワンマンの永守さんの意向を無視して、社外取締役が後継者を指名できるわけがない」(証券会社幹部)との冷ややかな声も飛び交う。

 この約10年、永守氏は外部から後継候補をスカウトしてきたものの、いずれも長続きしなかった。2022年9月、前任の関潤社長が辞任するや、「(外部登用は)間違いだった」と述べ、生え抜き中心の経営体制に改める考えを示した。

 また10月1日付の新役員体制の発表資料から三菱商事出身の吉田真也専務執行役員やシャープ出身の中山純一郎執行役員の名前が消えたことも憶測を呼ぶ。中山氏は2016年に日本電産に入社、吉田氏は22年に入社したばかり。特に、吉田氏は次期社長の有力候補だった。

 これも生え抜き中心の経営体制への移行の一環とみられるが、その足元もぐらつく。

 この1年あまりで、社員の1割を超える300人以上が同社を去っており、その多くが関前社長の辞任で、社の将来を悲観したからだという。

 次期社長という一大テーマのカギを握る指名委員会のメンバーの全容はいつ明らかになるのか。その公表の仕方も含めて、経済界は固唾を飲んで見守っている。

丸の内コンフィデンシャル」の全文は、「文藝春秋」2023年2月号と「文藝春秋 電子版」に掲載されています。