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運命を分けたトライアウト

 新しい夢に向かって進む平尾を、野球の世界に引き戻したのが、昨年ルートインBCリーグに立ち上がった新球団、滋賀ユナイテッドだった。古い友人の「一緒に受けよう」という誘いに、最初、平尾は首を縦に振ることはなかったが、結局、トライアウトの会場でボールを握っていた。久しぶりの硬球は少し重たく感じた。

「大学辞めた後、草野球はやっていたんですけどね。その時は普通に投げられました。草野球だからプレッシャーがないからな、くらいにしか思ってませんでしたね」

 イップスはいつの間にか治っていた。ブランクはあったものの、186センチの堂々たる体躯から繰り出される速球は、選手集めに困っている新球団の目に留まった。2017年シーズン、1年半ぶりにフィールドに戻った平尾は、先発とリリーフの「二刀流」で2勝5敗5セーブ防御率2.83の成績を残した。ここで無欲だった平尾に初めて欲が生まれた。

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「最初は、楽しく野球やって終わりたい、くらいの気持ちで独立リーグに入ったんです。大学時代、あんな終わり方しましたから。でも、独立リーグからプロ行く人たち見ていると、自分もそこを目指したいなって。そう考えると、チンタラしてられないなって。体が動く限り現役はできるかもしれないけれど、プロ行った人たち見ていたら25〜6歳がリミットかなって」

とにかく実戦、失われた時間を取り戻すため海外へ

 こうしてはいられない。ブランクを埋めるため、平尾は冬のプレー先を探した。滋賀の監督、上園啓史に、オーストラリア、オランダでのプレー経験があったことが幸いし、チームが見つかった。

「本当にいい監督でした。面倒見が良かったし。上園さんの移籍を手伝ったエージェントを紹介していただいたんです。そこから、オーストラリア、メキシコ、そしてパナマの3つを提示されたんですが、オーストラリアはプロリーグではなくクラブチーム。それでメキシコとパナマのどちらかってことになって、条件がよりいい方のパナマを選んだんです」

 と言っても、その条件というのは、ロサンゼルス・パナマ間の往復航空券に宿泊と食事の保証というプロというにはあまりにお粗末なものだった。受けとる現金は、ホームで15ドル、ビジターで20ドルというミールマネーだけだった。

「まあそれでも、ホームにいるときは朝食はホテルで出してくれますし、それだけもらえれば十分ですよ。それに日本からアメリカの航空券もリーグのスポンサーに航空会社がついていたので、割引運賃で来れました」

 と本人は意に介さない。エージェントには、決して安くはないマネジメント料を支払ったが、次のステップのための投資だと割り切っている。

「去年は、冬はウェイトくらいしかできませんでしたから。それを思えば、実戦経験を積めるだけいいです。とにかく僕には実戦が必要ですから。去年(2017年)、久しぶりに戻ってポンコツのままだったんで、何か変えたいんです」

厳しい環境の中でのプレーだったが…… ©阿佐智

やっぱり、海外はつらいよ。でもその先に……

 ほとんど初めての海外、それも人々の気質が全く違うラテンアメリカとあって、戸惑うことも多かった。この時期のパナマは雨が多い。それに伴うスケジュール変更も日常茶飯事だ。あるはずの試合がなかったり、ダブルヘッダーと聞かされスタジアムにいったが、実は1試合しかなかったりということも経験した。

「遠征の時は、バスで行くんでまだましでしたけど、ホームのパナマシティの球場までのタクシーはホント苦痛でしたね。ガタガタの道をとにかく飛ばすんで危なっかしいんですよ。宿舎のホテルの周りも危ないし。来て早々、近くで銃殺事件があって、その動画がアップされてました。それに何と言っても、やっぱりしゃべれないっていうのはストレスでしたね。こっちが悪いんですけど。どうしてもイライラはつのりました」

 パナマリーグでは、主に先発を任された。中南米のご多分に漏れず、パワー重視のパナマリーグだが、平尾にはかえってやりやすかった。

「確かにパワーのある人は多いし、なにかに秀でている選手も少なくないです。でも、全体的にまとまってないし、組織として戦うなら、僕的には、レベルはBCリーグの方が高い印象ですね。僕自身がどちらかというと、小技の利くバッターの方が苦手で、大振りするバッターが怖くないんで」

 なによりも、外国人選手相手の経験はかけがえのないものになった。変化球より、案外まっすぐで三振を取りやすかったことは外国人選手対策としては新しい発見だった。

 とにかく経験を積みたいと思って飛び込んだパナマリーグだったが、終わりはあっけなくやってきた。1月半ばまであるはずのレギュラーシーズンは12月末に突然終了。連絡はメール1本だった。

「12月30日にホテルをチェックアウトして、出国するように」

 最終戦も雨で流れ、なにがなんだかわからないまま荷物をまとめることになった平尾だったが、ただひとつわかったことがあった。それは、「プロ入り」という自分の目標だった。

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