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 しかし文化の盗用という言葉も、SNSもなかった時代であり、グウェンが批判を受け入れることはなかった。その後も現在に至るまで根強い人気を保っているグウェンが雑誌『allure』最新号のインタビューで、日本文化の大ファンである自分は日本人なのだと言い切ったのだった。

アジア系アメリカ人記者が抱いた「嫌悪感」

 グウェンは子供時代、米国ヤマハ勤務の父親が日本に頻繁に出張しており、父からの土産話によって日本に大いに憧れていたと言う。大人になり初めて日本を訪れた際、原宿を見て感極まって「神様、私は知らなかったけれど日本人なの、と口にした」とインタビューで語った。

 グウェンをインタビューしていたのはアジア系の女性記者であり、「アイム・ジャパニーズ」を一度ならず繰り返すグウェンにえも言われぬ気持ちになったことが記事の行間から読み取れる。

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 記者がグウェンの言葉に違和感というより嫌悪感に近いものを抱いたのは、グウェンが日本文化のファンであることと、自分を日本人だと主張することの違いにまったく気づいていなかったからだろう。その背景にはアメリカの人種階層の問題がある。

 グウェンは米国のマジョリティである白人であり、マイノリティの立場や心情を慮らずとも生きていける。しかし人種マイノリティは常にマジョリティの動向に左右されてしまう。

 アジア系に関していえば、その最たる例はトランプが大統領時代にコロナウイルスを「チャイナ・ウイルス」と呼び続け、アジア系へのヘイトクライムが激増して何人ものアジア系が殺害されたことだろう。

 記者は、その時期にグウェンがヘイトクライムに関して一切のコメントを発していないと指摘している。日本人を自称するグウェンだがアジア系ヘイトクライムの被害者にはなり得ず、グウェンには他人事だったのだ。

 そもそも多人種社会であるアメリカでは多くの人が強い人種民族アイデンティティを持っており、「私は〇〇人」または「△△系アメリカ人」といった表明は決して軽いものではない。グウェン自身、「私はイタリア系(父方)で、あとアイルランド系(母方)とか~」とも発言している。だが、他者のアイデンティティを「文化が好き」というレベルで語ることには、なんの躊躇もないのだ。

 グウェンが盗用したのは日本文化だけではない。ノー・ダウトの初期にはアフリカ由来のバンツーノットと呼ばれる髪型に、南アジア系の女性が額に付けるビンディを合わせていた。

ノー・ダウト初期のグウェン・ステファニー ©getty

 ソロ・アルバム『ラヴ.エンジェル.ミュージック.ベイビー. 』では原宿フレイヴァーを炸裂させながらも、ヒップホップおよび「チョラ」と呼ばれるメキシカン・アメリカン女性のファッションも取り入れていた。2012年にノー・ダウトとして発表した曲「Looking Hot」のビデオではネイティブ・アメリカンの装束で現れている。