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米白人歌手の「私は日本人」発言、アジア系アメリカ人記者が抱いた“嫌悪感”の正体

2023/01/20
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 2020年にリリースした久々のシングル曲「Let Me Reintroduce Myself(再度の自己紹介をさせて)」では自身の過去のファッションをいくつも再現しており、ビンディ、桜を背景にしたかんざし姿も含んでいる。そして昨年5月にレゲエ・シンガー、ショーン・ポールの「Light My Fire」にフィーチャリング・アーティストとして参加した際にはジャマイカ国旗の色の衣装にドレッドロックスの出で立ちで歌っている。

“ハラジュク”で10億ドル以上稼いだ側面も

 グウェンは「もし私たちが文化を売買したり、交換したりしなければ、私たちはこれほどまでに美しいものを手にしていない」「(そうしたことを咎める)ルールは、私たちをますます分断していくだけ」と語っている。

 古今東西のあらゆる文化が他の文化を取り入れることによって発展してきたのは事実だ。だが、現在のアメリカではアメリカの歴史に沿って延々と行われてきたマジョリティによるマイノリティ文化の盗用と搾取に対して、ついにマイノリティ側が声を上げ始めているのだ。つまり今は時代の転換期であり、今後、文化盗用の自制と、多文化ミックスによる文化発展のバランスをどう取っていくのかーーこれが非常に大きな課題と言える。

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 先に書いたように文化の盗用は他者のアイデンティティを強奪する行為だが、同時に経済搾取でもある。昔、白人俳優が黒塗りをして大流行させたミンストレル・ショーによって黒人は「間抜けだが陽気で歌と踊りは上手い」というステレオタイプをかぶせられただけで、黒人の懐には1セントも入らなかった。

 近年、プロ/アマを問わずネイティブ・アメリカンの名を冠したスポーツ・チームがようやく改名し始めているが、これも白人の侵略に抗戦した先住民を「どう猛」とステレオタイプ化し、その名とキャラクターグッズの販売で人気と利益を得たのはチーム側のみだ。同様のことが他の分野、他のマイノリティ人種民族にも延々と起こってきた。

 グウェンはインタビューにおいて奇しくも「文化を売買」というフレーズを持ち出しているが、本質的な意味は理解していないと思われる。ショービジネスの世界に生きるグウェンもまた多数の他文化を見聞き、時には購入し、それを取り入れた作品を作り、販売して大きな利益を上げてきた。中でもハラジュクはグウェンにとって莫大な収入源となった。

 グウェンは、成人服ブランド L.A.M.B. (ブランド名はハラジュク・ガールズ4人のニックネームLove/Angel/Music/Babyのイニシャルをもとにしている)、香水が大ヒットした姉妹ブランド Harajuku Lovers、子供服ブランドHarajuku Miniを次々と売り出した。

自身のブランド「Harajuku Lovers」のイベントに参加するグウェン・ステファニー ©getty

 それに際して「Harajuku Girl」 「Harajuku Lovers」「Harajuku Mini」の商標登録申請も行っているが、これは却下されている。しかし3ブランドの売り上げ総計は10億ドルを超えていると、『allure』の記者は書いている。

 グウェンによって日本のカワイイ・カルチャーは世界に広まった。自国のカルチャーをセレブが大々的に喧伝してくれたことを嬉しく思った日本人も少なくないようだ。

 しかしアメリカに暮らす日系人を含むアジア系女性は、以前からのステレオタイプをさらに強烈に押し付けられただけで得るものは何もなかった。ある音楽番組でのパフォーマンスで、ブリーチした金髪をなびかせる白人セレブに、文字通り三つ指をついてひれ伏す中高生ファッションのハラジュク・ガールズ。その光景は目を覆いたくなる以外の何物でもなかったのだ。

米白人歌手の「私は日本人」発言、アジア系アメリカ人記者が抱いた“嫌悪感”の正体

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