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いのうえ ぬか床を混ぜるようなルーティンって意外と重要なんですよね。日々触ることでコンディションが手に伝わるのですが、そうやってぬか床と向き合う作業は、自分自身のコンディションを確かめることでもあるのだと、最近特に感じます。

 子育てと一緒くたにしたら怒られるかもしれないけど、何かを育てるのは自分自身を育てることでもあると実感しています。

――クミコさんもそうやって育てる楽しみを味わっていますよね。

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いのうえ さっき「不安」がキーワードだと言いましたが、私は50歳を過ぎてから更年期障害がひどくて、不安感や焦燥感に取りつかれていたんです。そういう不安をぬか漬けが癒してくれたり、混ぜる作業でしんどさを昇華させてもらったりして。

 結果的においしいぬか漬けができたら、腸内環境がよくなるし、メンタルも上がる。「整う」ってこういうことなんだと思いました。

ぬか床を通じて自分がどういう人間なのかわかるように

――漫画の主人公として、50代の女性というのも新鮮だったりします。

いのうえ 20代、30代のときは自分を冷静な目で見られず、まだまだイケてる自信があったけど、50代は「ああ、私は大体この辺だな」っていうのが認めたくないけどわかってくる。

 一生を季節で例えるなら秋半ばで、寂しい気持ちもあるんですけど、その先をちょっと見ると、70代の方たちがすごく元気だったりもして。そのなかには、つらい50代を過ごした方もきっといると思うので、勇気をもらいつつ、「一緒に乗り越えていきましょう」という思いを込めています。

 

――新卒で入社した会社で、50代になるまで総務畑一筋で働いてきたクミコさんの背景は、どのようにして考えたのでしょう。

いのうえ 私自身、「女性はこうすべき」「20代はこう振る舞うべき」「中年になったらこういう服を着るべき」という外側からの「べき」の枠組みにはまったほうが、楽な時代を生きてきました。当時と比べると今は、どう振る舞っても文句を言われにくい時代になってきていると思うんですけど、逆に「好きにしていい」と言われると、どうすればいいのかわからなくなってしまう。

 時代の価値観に流されて、「私には何もない」としょんぼりするのと更年期が重なるんですけど、ぬか床を通じて自分はこういう人間なのだと、だんだんわかるようにもなってきて。自己認識をちょっとだけ変えられるまぶしい瞬間を、クミコさんを通じて描けたらいいなと思っています。

 

「どうぞごじゆうに」というタイトルに込めた思い

――更年期障害や閉経などは、「いつか来る」と頭ではわかっていても、実際にそのときが来なければイメージしにくかったりもします。その辺りの心細さや不安も、さり気なく物語に落とし込んでいますよね。

いのうえ 生理なんて鬱陶しいし、早く終わればいいのにと思っていたはずなのに、いよいよ終わりを意識し始めたら、「何も役に立たなかったな」と急に寂寥感に襲われてしまったのです。本能ってすごいなと感じた瞬間でした。子どもを生まない選択をして、アグレッシブに活躍されている女性はそういう話をあまりしないですけど、自分と同じような焦りや寂しさを感じないのかなと思ったので、素直に描いてみました。

――「どうぞごじゆうに」というタイトルに込めた思いを教えてください。

いのうえ 私はダジャレが大好きなので、「50(ごじゅう)」と「ご自由」をかけてみました。思春期と更年期って、似てるところがあると思うんです。どうしようもないイライラとか、自分が何者かわからなかったりとか、2回目の自分探しをしている気分なのですが、そこから解き放たれて「これが私です」と言えるようになるときが、50代なのかなって。「50」と「ご自由」、これ以上ないくらいの啓示が降りてきちゃった感じです(笑)。