いま日本の個人金融資産の6割を60代以上の高齢者が所有しているという。その格差のツケを払うのは若者であり、非正規雇用者が多い女性だ。大学に通い、卒業して、就職する――「幸せな昭和」を生きた世代が当たり前に享受できた「普通」を、彼女たちは手にすることができない。

 漫画『東京貧困女子。』(原作:中村淳彦、漫画:小田原愛)は、そんな女性たちが直面する貧困のリアルを容赦なく描き出している。原作は「東洋経済オンライン」で連載された「貧困に喘ぐ女性の現実」。ノンフィクション作家の中村淳彦氏が当事者の女性たちをつぶさに取材し、“人生に躓いた理由”を探っていく内容が反響を呼んだ。

貧困当事者女性への厳しい声

©中村淳彦・小田原愛/小学館

「漫画のなかで描かれるのは、すべて中村さんの取材に基づいたエピソードです。なかでも国立大学の医学部に通う21歳女性が、親から金銭的な援助を受けられず、学費やサークル費(体育会のテニス部)を稼ぐために風俗に従事しているという告白は衝撃的でした。大学に行くためには奨学金という名の多額の借金を背負ったり、身体を売ったりしなければならないほどのお金が必要だというこの国の現状を突き付けられます」(担当編集者の山口翔さん)

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 この21歳医大生の告白記事が発表された当初、コメント欄には「部活をやめればいいだけ」「経済観念が弱すぎる」などの批判で埋め尽くされたという。漫画版にも、そのような「外部の視点」が取り込まれている。

「彼女のケースに限らず、貧困が生まれる背景には、家庭環境、健康状態、雇用形態、本人や配偶者の性格など、さまざまな要素が複雑にからみあっています。自己責任の一言で片づけるのは簡単ですが、彼女たちのバックグラウンドを丁寧にときほぐし、問題の核心に迫るところが中村さんの取材の凄いところです。それを小田原さんが描く漫画という手に取りやすい形で世に送り出したら、いい意味での化学変化が起きるのではないかと感じました」(同前)

貧困報道の意義とは?

©中村淳彦・小田原愛/小学館

 本作では、中高年女性の貧困も取り上げられている。年収140万で3人の子どもを育てるシングルマザー、月収13万円で年老いた母を養う30歳会社員など、いずれの女性をとりまく環境も過酷をきわめる。

 彼女たちの身の上話に耳を傾けるのは、漫画版のオリジナルキャラクターである久野という女性記者だ。久野は「貧困はエンタメだ」という上司の言葉にあらがいながら、報道の意義について自分なりの答えを出すべく、当事者女性たちに会いに行く。

「やはり貧困をテーマにした報道や作品には賛否両論があり、『当事者が見世物になっているのではないか』などというご意見をいただくこともあります。しかし、原作者の中村さんの受け売りになりますが、これまで見過ごされてきた現状にメスを入れ、周知することで社会の潮目が変わるかもしれない。この作品も、貧困問題について考えるきっかけの一つになればと思っています」(同前)

既刊7巻、累計発行部数20万部(電子含む)

小学館の電子レーベル「ビッグコミックスペリオール ダルパナ」にて配信中