「敵地を混乱させることが目的です」(脱北者で韓国の国策研究所客員研究員)

 北朝鮮が平昌冬季オリンピック開幕前日の2月8日に軍事パレードを行うことが分かり、韓国社会がまたぞろ騒然となっている。

 パレードは大規模になるといわれ、準備に動員された人員は当初の1万3000人から5万人ほどと大幅に膨らみ、200台あまりのトラックや移動式ミサイル発射台なども衛星で確認された。

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五輪開幕前日に北朝鮮では軍事パレードが(写真は2015年10月10日に行われた朝鮮労働党創建70周年の軍事パレード) ©getty

統一部長官は苦しい弁明を繰り返している

 北朝鮮の「朝鮮人民軍創建日」は、これまで4月25日とされていたが、今年の1月23日になって、急きょ2月8日に変更された。

 2月8日は、もともと1948年のこの日に北朝鮮の人民軍が創建されたといわれ、実際に1977年までは「朝鮮人民軍創建日」だった。ところが、その後、故・金日成主席は、自身が反日人民遊撃隊を結成した4月25日を創立日に設定していた。

 韓国・統一部長官は、「平昌オリンピックとは無関係で、偶然の一致」(聯合ニュース1月27日)と苦しい弁明を繰り返しているが、マーク・ナッパー駐韓米国大使代理は、「北朝鮮の閲兵式はオリンピック精神の毀損であり、国際社会に向けた真正面からの挑戦」(文化日報1月26日)と非難の声を上げ、韓国の進歩系メディアでさえ、「憂慮されるオリンピック開幕前日の北朝鮮の閲兵式」(ハンギョレ新聞1月26日)という社説を掲げている。

 冒頭の研究員が解説する。

「ここ2~3年、労働新聞で創建日を2月8日に変更しようと読み取れる記述があり、2月8日に戻すのではないかとも囁かれていたのは事実です。それが奇しくも平昌オリンピックの開幕の前日となりましたが、北朝鮮がやることに偶然はありません。世界の耳目が集まるオリンピックと日程が近くなったことを利用して、敵地、つまり米国に向けて新型武器を誇示することが目的なのです。ですから、創建日の変更は好都合だった。

 混乱させる意味からいえば、北朝鮮は平昌オリンピックに突然参加すると明らかにして、韓国社会は十分右往左往しています。そして、派遣団協議の日程を一方的に変えたりして韓国を狼狽させ、閲兵式で韓国に恥をかかせる。北朝鮮は目的の半分はすでに達成したと思っているのではないでしょうか」

どんな大会として記されることになるのか…… ©getty

金剛山で予定されていた南北合同行事は中止

 その2月8日には、北朝鮮からオリンピック代表団が訪韓し、オリンピック競技開催地のひとつ江陵市では北朝鮮の芸術団による公演が行われる予定だ。なんとも奇妙な構図ができあがる。

 韓国の北朝鮮専門家はこう嘆息する。

「北朝鮮の行事ですから『中止しろ』とまでは言えなくても、韓国政府が北朝鮮を代弁してどうするのでしょう。平和的なオリンピックのために努力してくれと主張すべきです」

 さらに北朝鮮は1月29日夜、創建日をめぐる韓国メディアの批判報道を口実に2月4日に金剛山(北朝鮮)で予定されていた南北合同行事を中止すると伝えた。明けて翌朝から、韓国メディアは一斉にこれを批判し、韓国政府も初めて遺憾の意を表わしている。