ただ、そういった入管の腐敗体質も2016年6月からのロドリゴ・ドゥテルテ政権下でかなり浄化が進んだ。マニラ空港の入管職員が中国人向けオンライン賭博運営会社(POGO)関係者を不正入国させていた問題を巡って出入国管理庁は20年2月に毅然と対応し、空港入管職員ほぼ全員の配置転換を断行した。それでも汚職体質が収まらなかったことからドゥテルテ前大統領退任直前の22年6月には行政監察院が空港入管職員45人を免職処分とした。
ドゥテルテ前大統領は「抵抗する者は殺せ」と命じて覚醒剤を中心とした違法薬物密売組織の取り締まりも徹底させた。「麻薬戦争」とも呼ばれたこの取り締まりで、少なくとも6000人以上が殺されたことから、国連や国際的人権団体はドゥテルテ氏を「人道に反する罪」で裁こうとしている。しかし、フィリピン人の多くはドゥテルテ前大統領を熱烈に支持し、任期中の支持率は8割前後で推移した。その理由には麻薬戦争を通じて治安が劇的に改善したことがまず挙げられる。さらに歴代政権が手を付けられなかった国の宿痾(しゅくあ)ともいえる警察の腐敗にもメスを入れたゆえだった。
麻薬戦争と並行して悪徳警官の処分が進められた。ドゥテルテ政権下で全国の警察官22万人のうち約2万人が懲戒処分を受け、約5000人が免職とされた。全体の1割以上が処分されたことになる。
「ルフィ」事件をみてフィリピン人たちが抱いた印象は?
今回、「ルフィ」たちに個室を充てがい、パソコンの使用も認めるなどのVIP待遇を認めていたことで、ボンボン・マルコス政権もビクタン収容所の所長を更迭、職員ら16人を免職とした。これも、多くの日本人から見れば「当然の処分」となるが、腐敗が横行していても見て見ぬふりだったかつての政府と比べると、長くこの国を見てきた識者は「政府の意識が変わった」との印象を抱いている。
在フィリピン日本大使館元専門調査員の木場紗綾・神戸市外国語大准教授は「入管の汚職体質は近年かなり改善した」とし、次のように話す。
「フィリピン人は外国人に対し、自国の汚職や無秩序を自虐ネタにして、相手を喜ばせる『サービス精神』のようなものがある。フィリピンのことをあまり知らない日本の報道陣の中には、現地で聞いたことをうのみにし『フィリピンはひどい国』と安易に思い込む人が多い。そういった記者がフィリピンを見下して書く記事を人工知能(AI)翻訳で読み、呆れているフィリピンのジャーナリストも少なくない」