かつてはインフラ整備の遅れ、汚職のまん延、治安の悪さなどゆえ「アジアの病人」と呼ばれてきたフィリピンは現在、高度成長時代とも言っていい輝きの中にある。
新型コロナもいち早く収束し、フィリピンの2022年の経済成長率は7.6%となった。燃料費高騰などで物価高が進む23年も5.7%の経済成長が予測されている。21年時点の国民の平均年齢の中央値は日本が48.4歳であるのに対し、フィリピンは24.5歳と圧倒的に若い。高い出生率と旺盛な個人消費に支えられた経済成長は今後も続くとみられている。
「フィリピンではあり得ない」フィリピン人が驚く現代日本の“闇”
世界経済フォーラムが算定した男女平等や女性の社会進出の度合いを示す指標では世界17位でアジアトップ。これに対して日本は「女性国会議員の少なさ」や「女性の経済参加と機会」などの評価が低く、世界120位だ。
アジア各国の最新事情に詳しい旅行作家の下川裕治氏は次のように話す。
「20年ほど前までのアジア各国は日本と比べると確かに『後進地域』だった。しかし、1人当たりの国内総生産(GDP)で韓国、台湾、香港、シンガポールがいまや日本を追い抜いた。他の国・地域も経済の勢い、社会の活気は日本をはるかに上回っている。物価も上がり、バンコクの缶ビールは日本より高くなった。急激なアジアの変化に認識が追いついていない日本人は多い」
フィリピンは独居老人がほぼ皆無な国だ。これはタイなど他の東南アジア諸国の多くに共通する世帯事情でもあり、高齢者は子どもや親戚とまず例外なく同居している。
親日意識がアジアでナンバーワンとも言えるフィリピン人に「ルフィ」たちが高齢者をだますなどして金を奪っていたと説明すると「それはひどい連中だ」と彼らは憤りをすぐに共有する。その上で「その時、お年寄りの子どもたちはどうしていたのか?」と聞かれる。高齢者だけの世帯だったと説明すると「フィリピンではあり得ない」と誰もが驚く。日本には日本の事情があるわけだが、フィリピン人には日本の「家族」のあり方が大きな謎と受け止められる。
「ルフィ」たちが手を染めた犯罪の闇は深い。ただ、その背後には、30年以上経済が停滞したまま高齢化が進む日本という国が抱える闇も広がっているように思える。