かつて日本人は、電車に乗るときは毎回、駅の券売機で切符を買っていた。それも今は昔。現在は切符を買わず、手持ちのICカードを改札機に「ピッ」とタッチするだけ。改札が開き、スムーズに電車に乗れる。
今や私たちの生活に欠かせなくなった交通系ICカード。2001年、第1号となる「Suica」がJR東日本よりデビューした。あとに続くように、ICOCA(JR西日本)、PASMO(PASMO協議会)、TOICA(JR東海)など、各地でICカードが次々と誕生していった。
バラバラと存在していた全国10枚の交通系ICカードは、徐々に相互利用の環境を整えていき、2013年に全国での相互利用をスタート。Suicaで大阪の電車に乗れる、ICOCAで東京の電車に乗れる、1枚のカードで日本全国どこでも行ける。めでたく日本統一がなされたのだ。今年は統一から10周年となる。
全国の鉄道事業者が次々と導入
交通革命ともいうべき交通系ICカード全国統一。舞台裏では一体何が起きていたのか。JR東日本で電子マネー事業を担当するマーケティング本部 決済・認証ユニット 次長 田口暁さんに話を聞いた。
「Suicaが誕生し、首都圏での利用がスタートした2001年。切符を買う手間がなくなり、お客様はストレスフリーで鉄道利用ができるようになりました。忙しくて時間のないビジネスパーソンの方でも、複雑な券売機に戸惑いがちな高齢者の方でも『ピッ』とするだけで、楽に電車に乗ることができます。
かつて『イオカード』というプリペイド式磁気カードもありました。例えば5000円分買っても、使い切るとまたカードを買う必要がある。交通系ICカードならば金額をチャージすればいいので、同じカードをずっと利用できるのも楽なポイントです。
交通系ICカードは、実は私たち鉄道事業者にもメリットがありました。たとえば改札機のメンテナンスです。自動改札機の中には搬送部という部分があり、そこを切符や磁気カードが通るわけですが、搬送ベルトが摩耗したり、センサーに埃がたまることもあるため、定期的に清掃や取替が必要になります。ICカードの誕生で、これらのメンテナンスコストが削減されたという利点もあります。」
そんなSuicaの利用状況を見て、ほかの鉄道事業者も次々に導入を始めていった。しかし当時はICカードを持っていても、そのエリアでしか利用できず、出張や旅先では毎回切符を買う必要があった。慣れない路線図と格闘しながら切符を買った人も多いはずだ。
日本中の鉄道会社が膝を突き合わせて…
そんな不便を解消しようと、各鉄道事業者たちは交通系ICカード全国統一を目指し突き進んでいく。
「全国統一に向けて、たくさん話し合いをしてきました。多い時は月に3回、みんなで集まって会議をしたこともありました。北は北海道から南は九州まで、様々な事業者が発行したカードが全国に散らばっています。今でこそ、Web会議のシステムが普及していますが、当時はそんなものはありません。持ち回りで幹事会社を決めて、各地で集まって会議。飛行機や新幹線で毎回かけつけて、膝を突き合わせての話し合いです。『毎回、東京でやればいいじゃないか』と言っても、それでは不公平が生まれますからね。そんな感じで、全国統一の夢を形にしていきました。
特に『各社、どこまでサービスを合わせるか』は慎重に議論を重ねました。もちろん一番基本的なところは、A地点からB地点まで乗車可能にするところですが、ほかにも払い戻しなど細かなサービスをどこまでやるか決める必要がある。また大事なことの一つに、清算の問題があります。たとえばSuicaで Osaka Metroに乗った場合、JR東日本から Osaka Metroへ清算が行われます。支払い漏れは許されないことですし、セキュリティの面も重要。厳重なシステムを構築するのも大変苦労した点です。
そしてついに、2013年に全国相互利用が実現しました。みなさんが普段使っているICカードで全国行けるようになりましたし、お弁当やお土産を買うこともできます。これも我が国の鉄道の歴史において、大きな進歩だといえます」
1か月2.6億回。凄まじい数の決済
交通系ICカードは鉄道利用だけでなく、買い物のパートナーとしても私たちの生活に密着している。もともと鉄道に乗るためのカードであったことを忘れている人もいるだろう。
交通系電子マネーの利用者はどんどん増えている。利用件数は年々右肩上がりで、2022年6月には1日あたり初めて1000万件を突破した。これは単純計算で、1秒間に約115.7回「ピッ」と利用されていることになる、凄まじい数字だ。また2023年2月末現在、全国での利用可能店舗数は約160万店舗を越えた。1か月あたりの最高利用件数は約2.6億件に上るなど、成長のスピードが緩むことはない。
どうして交通系電子マネーはここまで広がりを見せるのか。田口さんはこう分析する。
「2019年に経産省によるキャッシュレス決済を促すキャンペーンがありましたが、利用者の意識が変わったのはその頃からだと感じています。そのあと新型コロナが蔓延し、非接触が推奨されることで『安全に買い物したい』『小銭のやり取りをしたくない』という消費者の思いも強くなりました。そんな社会的背景もあり、加盟店の数も急速に増加していきました。
Suica導入当初も、私たちは鉄道利用だけではもったいないと、買い物でも利用してほしいというビジョンを描いていました。それでも、きちんと街の中で使ってもらえるのかという不安はありましたね。ここまで広がったのも、ご利用頂いている皆さんのご支援あってのことだと思っています」
交通系電子マネーは、ポイント活用でお得に使えるのも大きな魅力だ。たとえばSuicaならJR東日本の共通ポイントサービス「JRE POINT」や「えきねっと」との連携で、鉄道に乗ったり、お買い物すると効率的にポイントを貯めることができる。貯まったポイントはSuicaにチャージしたり、買い物時に利用することが可能で、利用者にとって嬉しいサービスだ。
交通系ICカードは各社でお得なポイントサービスが用意されている。あなたが使うカードには、どんなサービスがあるだろうか。
10周年を記念し、実はお得なキャンペーンが目白押し
今年は交通系ICカードの全国統一10周年。カードの累計発行枚数は2億枚を超えている(2023年3月現在)。
「交通系ICカードは、みなさんに育ててもらったカードです」と田口さんは感謝の思いを語る。
「朝の通勤で忙しい時間も、ICカードがあれば、さっと改札を通って、コンビニでコーヒーを買える。この小さな体験が一つ一つ重なって、ここまで利用してもらえるようになりました」
3月21日からは利用者への感謝を込めて「交通系ICカード全国相互利用10周年記念イベント」および「交通系ICカード全国相互利用10周年キャンペーン」がスタートする。
電車・バスの利用で、ホテルペア宿泊券や、5000円分のびゅう商品券、グルメギフトといった豪華賞品が当たるキャンペーンを開催。また、セブン銀行ATMで一度に3,000円以上チャージすると、抽選で2000円分のチャージが5,000名に当たる。セブンイレブンで交通系電子マネーを使って、一度に700円(税込)以上の買い物をすれば、当選確率2倍になるのも見逃せない。
大人だけでなく子供が楽しめるイベントも満載。鉄道博物館では、シンボルであるC57形蒸気機関車に「交通系ICカード全国相互利用10周年記念ヘッドマーク」を設置。館内で「交通系ICカードキーワードラリー」も開催される。
上限金額2万円について聞いてみると…
今後、交通系ICカードはどう展開していくのか。田口さんに聞いた。
「まだまだICカードが使えないエリアがありますので、各地でエリアを拡大していきます。Suicaは2023年5月から青森、盛岡、秋田でエリアを拡大していく予定です。利用可能な店舗数もどんどん増やしていきます。また、カードの上限金額は現状2万円ですが、これについても『上げてほしい』という声をお客様からいただいていますので、今後検討していくべき課題だと位置づけています。
みなさまに愛されて、育てられてきた交通系ICカード。この先も10年、20年と暮らしの真ん中にあり続けるように頑張ります!」
ますます便利になる交通系ICカード。全国統一10周年に乾杯だ!
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提供:JR東日本