4月総選挙浮上のワケ
だが、岸田は就任直後の一昨年の衆院選も予定より早めて自民党を勝利に導き、「衆院選の前倒しが『成功体験』になっている」(首相周辺)。昨年の参院選後の内閣改造も、盆明けとみられていたのを盆前に急きょ断行した。岸田の「サプライズ好き」が窺える。岸田側近はこう語る。
「総理は就任当初から地方選とのダブル選挙も選択肢に入れていた。2月にウクライナ訪問を検討しているのも、解散のタイミングを睨んでのこと。防衛力強化の重要性を訴えられるし、増税にも理解を得られるという算段だ」
統一地方選と同日となれば、地方選挙でしのぎを削る野党同士の選挙協力は難しくなる。立憲民主党内では、影の薄い代表の泉健太では総選挙勝利は難しいとして、知名度の高い前代表の枝野幸男や保守中道票が期待できる元首相の野田佳彦を担ぎ出そうとの考えも燻るが、4月までに動く術はない。
こうした状況で、「多少議席を減らしても与党が勝利すれば、旧統一教会の問題をリセットし、重要政策にも国民の信を得たとして政権の求心力を回復できる」(同前)と岸田は睨んでいる。年明けの1月5日、岸田は自民党選挙対策委員長の森山裕と会談し、次期衆院選での区割り変更に伴う選挙区調整をできるだけ急ぐよう指示した。その後、森山は周囲にこう語っている。
「総理は凄く前向きで吹っ切れていた。解散は総理がお決めになることですが、『選挙区調整が終わっていないから決断できない』ということはないようにしないといけません」
一つの焦点は今後、内閣支持率が少しでも持ち直すかどうかだ。通常国会では、新たなスキャンダルが政権を襲う可能性もあり予断は許さない。また経済の動向も不安定要因だ。4月に日銀総裁の交代があり、金融情勢が一時混乱する懸念もある。ただ前出の岸田側近は強気の姿勢を示す。
「解散する環境を整えるのは難しい。ただ経済的な失速がなければ、解散の可能性はあるのではないか」
菅、ついに動く
こうした中、年明けと共に動き始めたのが前首相の菅義偉だ。本誌2月号掲載のインタビュー「派閥政治と決別せよ」で、菅は岸田が首相就任後も岸田派の会長を続けていることに苦言を呈した。菅は本誌発売のタイミングで訪問していたベトナムで、同行記者の要望に応えて同趣旨の発言を繰り返した。外遊出発前、菅は各社の幹部に個別に要請して同行記者を募っており、ここで存在感を示そうとしていたのは間違いない。菅側近は語る。
「菅さんが動き出したのは、このあたりで党内に影響力をしっかり作っておくため。岸田さんの後のキングメーカーになるということだろう」
ではなぜこのタイミングだったのか。菅に近い別の筋はこう指摘する。「菅がキレたのは、岸田がNHK会長人事で菅の意向を無視したため。総務省とNHKは菅の金城湯池。そこに手を突っ込むのかと、菅は岸田への怒りを露わにしていた」。
そんな菅と連携して次の政局の主導権を握ろうと考えているのが二階派や森山派などの非主流派だ。二階派の番頭格で元総務相の武田良太は「菅さんの発信が、反岸田のうねりを呼んでいく可能性がある。これからは何があるか分からん」と周囲に緊張感を滲ませている。武田は水面下で、元官房長官の青木幹雄が強い影響力を持つ参議院茂木派とも意思疎通を始めた。また菅周辺では、麻生派を飛び出した元総務会長の佐藤勉が、早々に勉強会を立ち上げるよう菅に促している。菅本人は「それはまだ早い」と制しているが、ポスト岸田に向けた行動をいつ本格化させるのか、虎視眈々とタイミングを計っている。(文中敬称略)
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月刊「文藝春秋」の名物政治コラム「赤坂太郎」全文は、「文藝春秋」2023年2月号と、「文藝春秋 電子版」に掲載されている。
岸田が描く「4月サプライズ解散」
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