月刊「文藝春秋」の名物政治コラム「赤坂太郎」。2023年3月号「岸田が描く『4月サプライズ解散』」より一部を転載します。

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最近、とにかく明るい岸田に「何だか怖いよ」

 かつて「とにかく明るい安村」というパンツ一丁の一発芸人が人気を博したことがある。何かを脱ぎ捨てると人は明るくなるのだろうか、自民党幹部は、首相の岸田文雄が「最近、とにかく明るい」と語る。「支持率3割そこそこの総理とは思えないほど明るくて積極的。何だか怖いよ」。

 周辺は「内閣支持率が危険水域に入り、他人のアドバイスを聞いても仕方がないと吹っ切れたようだ。自民党幹部の反対を押し切って総務相の寺田稔を更迭した頃から、態度が変わった」と証言する。岸田はその後、安全保障政策の大転換と増税、原発依存への回帰、異次元の少子化対策など、矢継ぎ早に政策の大風呂敷を拡げた。だが、根回しも議論もなく、いきなりトップダウンで命が下るため、霞が関は大混乱している。

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支持率低下にあえぐ岸田首相 ©文藝春秋

 そんな岸田の姿勢は、最側近で官房副長官の木原誠二との溝を深めている。木原にさえ、防衛増税などの重要事項の相談をしなくなったからだ。遠ざけられた木原は「岸田は頑固で冷酷だ」とこぼし、「岸田は総裁を1000日もやれば十分。次の総裁選には出ないほうがいい」と周囲に語っている。

 開き直る岸田は何を目論むのか。岸田周辺からは、「総理は密かにサプライズ計画を温めている」との情報が漏れ伝わってきた。それは「今年4月に電撃的に衆院解散・総選挙に踏み切る」というものだ。もしそうなれば、統一地方選挙と同日選になるだろうし、衆院の補欠選挙はなくなることになる。

 今年中の解散総選挙の可能性はすでに語られている。岸田も昨年末に出演したテレビ番組で「それ(増税)までには選挙はあると思う」と述べ、来年からと見られる防衛増税の前に信を問う可能性を示唆した。

 ただ、永田町関係者が揃って想定する解散のタイミングは「今年5月のG7広島サミット以降」。サミット後はいつ解散があってもおかしくないとの見立てだ。野党の幹部も「解散するとしてもサミット以降。しかもこの支持率では岸田が羽交い締めにされて、解散できないだろう」と楽観的な見通しを示す。そうした中、もし岸田が通常国会会期中の4月に解散を打てば、大きなサプライズになる。

 一方で否定的な材料はいくらでもある。地元でのサミットに、岸田の思い入れは極めて強い。その前に敢えてリスクを取るのか。また統一地方選との同日選挙に、自民党の地方組織や創価学会が難色を示すのは間違いない。しかも衆院議員の任期は今年10月でようやく折り返しだ。自民党総裁選も来年9月。総選挙での勝利を理由に無投票を狙うにしては、あまりに早すぎる。