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橋口 歌詞のインスピレーションを与えてくれるのって、僕の場合、「人の話」なんですよね。一番具体的だしリアルだし。友達に自分の恋愛相談をしつつ、泣きながら喋っているような言葉って、全部サビになりそうじゃないですか(笑)。

——「ベツカノ」は、今の彼氏に何の不満もない女性の主人公の心の動きが時系列で進んでいく。まるで物語のように歌詞が書かれています。

橋口 僕は本当に“物語を書くように”歌詞を書いているんですよね。曲の最初から最後まですべて時系列がしっかりないと嫌ですし、「AさんとBさんのおはなし」みたいに、出てくる人はしっかりキャラクター設定をします。どういう関係性なのか。どういう理由で別れたのか。頭の中でしっかりプロットを作りながら、歌詞を書いています。

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女性目線の歌詞を書いて、男性の自分が歌うこと

——“女性目線”で歌詞を書くのは難しくないですか?

橋口 歌詞を書く時はいつも頭を掻きむしりながら書いていますよ。でも、実は女性目線の方が書きやすいんですよね。なぜなら、自分のことじゃないので。男性目線だと、どうしてもカッコつけちゃったりしがち。僕の書く歌詞に出てくる男って、情けないけど一生懸命ないい奴っぽいのが多いんですね。でも、「ベツカノ」の女の子って、見る人が見たら結構ひどい人なので(笑)。そういう「異性ならいくらでも悪く書ける」みたいな感覚もありますし、自分自身と切り離して純粋な“物語”として書けるから、書きやすいんです。

 

——その歌詞を自分で歌うのはどういう心境なんでしょうか。

橋口 歌うときも同じ。女性目線の曲を歌う時は「昔々、あるところに……」くらいの距離感で歌えるんですよ。女性目線だと自分と切り離して歌えるんです。

 男性目線の恋愛ソングを歌う場合は、かなり状況を指定した設定を書かない限りは、最後は自分自身が歌うので、「橋口洋平」という存在と切り離せないわけです。自分の場合は、一番合っているキャラクターは「ダメなやつだけど一生懸命に誰かを思っている。その気持ちだけはだれにも負けない」という主人公。「恋だろ」は、まさにそんな曲ですよね。

「ベツカノ」は色々なミュージシャンにカバーしていただいているんですが、それは僕とこの曲との距離感が関係しているのではないかと思っています。つまり、僕自身がもう「おはなし」として歌っているので、カバーする人もみんな“語り部”として歌ってくれているのかな、と。歌と自分の間に一定の距離を置ける、というのが歌いやすいポイントなのかもしれませんね。

——「ベツカノ」は色々な聴かれ方をしました。そして曲の最後の〈♪あなたも早くなってね 別の人の彼氏に 私が電話をしちゃう前に〉という歌詞の解釈も色々あると思います。

橋口 元彼のことを想う女性の歌にも聴けるし、一方では、元カノに自分がこう思われていてほしいという男性の歌とも言われます。歌詞の目線は女性かもしれないけど、実は表裏一体。この歌の主人公がどんな答えを出して、どんな人生を歩んでいくのかの答えは、聴く人自身に委ねたいですね。

撮影 榎本麻美

(#3に続く)

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