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「なんていうか、新境地に行くんじゃなくて、今ある生活の中で描けるものを探したいっていうか。自分の手元にあるものでじゅうぶんな気がしてて。わたし、今の生活を愛してるんです」
そう編集者に伝える、慈しむような顔のともこを演じるトリンドル玲奈がすばらしい。
『今夜すきやきだよ』は身近な誰かの話
生活の楽しさや喜びだけじゃなく、そのあいだ/中でのすれ違いや葛藤を無理やり解決せずに含めているところも、このドラマの誠実さだと思う。誰かと親密になったり共に生活をしたりすると、信頼しているからこそ無防備に出てくる素直な会話の豊かさの一方で、どうしたってタイミングの悪さや配慮のない言葉で怒らせてしまうことはあるだろう。何かがおかしいと思ったときにきちんと伝え合い、変われるところは変わろうとする関係性が、あいことともこの生活には漂う。
あいこがゆきと付き合うことになっても、結婚の話が出てきても、結婚や恋愛で結びついていないあいことともこの共同生活が終わるという、安易な展開には着地しない。
現実にはまだまだ見る機会がほとんどない、多様な関係性やコミュニティのあり方を提示しようと、問い続け、踏みとどまり、希望を模索し続けてくれる。その忍耐が、終わりのない日常、生活の描写を通して伝わってくるのがこのドラマのすばらしい点だ。
これは奇想天外な話なんかじゃない。わたしたちの生きている現実に、街のどこかにあいこやともこのような人は暮らし、食事や家事をしたりしなかったりしながら、生活をきっと営んでいるはず。