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「お前に任せた。思い切っていってこい」

 たったそのひとことで、覚悟は決まった。

「やるしかないな、と。何度も、何度もチャンスで(打席が)回ってきますし、そういうところでまったく打てずにいたので、もう打つしかないな、と。開き直っていきました」

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 こう腹を括ると、頭は思った以上にクールに自分を分析できた。そして思い出したのが、3三振を喫した次の、7回の第4打席だったのである。

 3点を追った2死一、二塁。4番の吉田の打席を迎えたときだ。ネクストバッターズサークルで準備をしていると、ベンチでバットを持って準備をしている山川穂高内野手の姿が目に入ってきた。

「自分の状態も含めて、代打かな……」

 ちらっとそんな考えが浮かんだ直後に飛び出した、吉田の起死回生の同点3ラン。この一撃で実はチームも村上も、一度、命拾いをしているのである。結局その打席も三邪飛に倒れてトンネルは続いたが、実はそのフライを打ち上げた瞬間に、村上の身体に蘇った感覚があったのだという。

迎えた土壇場の打席

 そして迎えた土壇場の打席。指揮官の魔法の言葉に送り出されて打席に立った村上は、今度は冷静に自分自身の姿が見えていた。初球の151kmを三塁スタンドにファウル。そして2球目の低めのスライダーには、きっちりバットが止まった。

「前の打席の感覚を信じて最後の打席は立ちましたが、初球を振ったときにちょっと前にスウェーしているなとか、色んなことを冷静に感じられた。そこを修正していけました」

 そして3球目の151kmの真ん中やや外寄りのストレート。ボールを呼び込んで得意の逆方向に強く打ち返した。打球は左中間を真っ二つに割ってフェンスを直撃。その間に二塁から大谷が、そして一塁から吉田の代走の周東佑京外野手が一気にホームを駆け抜けて、日本の3大会ぶりの決勝進出が決まった。

塁を回りながらガッツポーズする村上 ©時事通信社

 一塁を回ったところで打球が抜けるのを見届けた村上は二塁ベース手前でヘルメットを放り投げると、二塁を回ってそのままナインの輪の中に飛び込んだ。次々とナインの手荒い祝福が飛んでくるのは、それまでの苦しみをみんなが知っているからだった。