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山川穂高もおかわり君も「僕は走らない」はNG…西武・松井稼頭央新監督が『走魂』に込めた想い

文春野球コラム ペナントレース2023

2023/03/31
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『走魂』。新生ライオンズの“松井野球”を一言で表す言葉として、今季のスローガンが決められた。昨年のうちから松井稼頭央新監督と球団スタッフで話し合いを重ね、監督自身の想いの込められたこの言葉に決まったという。

 その意味について松井監督は「走って躍動する姿がファンを魅了すると思うし、ファンの皆さんと1年間走り切りたいという思いもある。相手が本気で向かってくる以上、こっちも魂で負けないように向かっていく姿、最後まで諦めないで戦う姿勢が大事になると思います」と力を込める。

 2023年3月31日、松井稼頭央監督率いるライオンズが初陣を迎える。

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 2018年、優勝メンバーとしてライオンズで現役を退いたあと、2019年からは二軍監督として、昨年は一軍ヘッドコーチとしてライオンズを見てきた松井監督。2008年を最後に遠ざかっている日本一に向けて、期待を受けて今季から指揮を執ることになった。

 松井稼頭央と言えば、現役時代は走攻守すべてにおいて隙のない姿とズバ抜けた身体能力でファンを魅了してきた姿が未だ記憶に新しい。中でも走塁に関しては、盗塁王に3度輝いた実績だけでなく、足で相手に嫌なことをする、走塁から流れを作る――日本のみならずMLBでも足で魅せてきた松井監督がどんなチームを作るのか。どうやってポストシーズンまで勝ち抜けるチームを作るのか。

 2023年のチームスローガン『走魂』に込められた想いを紐解きながら、松井監督の目指すチーム像を聞いた。

2023年のスローガン「走魂(そうこん)」を披露する松井稼頭央監督 ©時事通信社

『走魂』とは、走ることだけではない!

 松井監督に、目指すチーム像を問うと「相手にプレッシャーをかける走塁をしてほしいと思っていましたし、投手と守備で最少失点に抑えて1点を守り勝てる野球を目指すことになる」という言葉が返ってきた。さらに「走っているとバッティングも良くなると思っているので、リズムをよくするためにも走ってほしいなと思っています」と続けた。

 近年投手の球速も上がり、投高打低の傾向が続くプロ野球界において、昨年は特にその傾向が顕著なシーズンだった。ライオンズも例外ではなく、投手陣の活躍が目立つ一方、得点力は物足りなさを感じたのも事実だ。

 しかし、打てないから勝てないでは芸がない。足で突破口を見出したい考えだ。塁に出た走者が走るそぶりを見せれば相手バッテリーにプレッシャーがかかる。投手のコントロールがアバウトになるかもしれない。そうなれば余分な球を投げることにもつながる。ランナーが動く可能性があるとなれば守備にもプレッシャーがかかる。

「山賊打線と言われたときも走っていたんですよね。盗塁だけではなく、ヒット1本で一塁から三塁、二塁からホームと。それがリズムになるんです」。隙のない走塁は隙のない攻撃になる。

 とは言えそれから選手の入れ替わりもあった。若い選手が多い今のチームには「ミスを怖がらないように、勇気を出そう」と常々話しチャレンジを促していると言うが、それはどんな場面でも走るということではない。

「失敗してもいい。ただ、だからと言って漠然と行くなよと。行くなら行くで準備して、考えて行ってみることが大事。準備が大事なんです」

 そう、取材の中で再三にわたって松井監督が繰り返したのが「準備の大切さ」ということだった。

「何事も準備だと思います。ティーもただ単にバッティングをするためのものではなく、結果を出すためのティー。あとは自分の体を知るという意味もありますよね。動き出して『あれ、ここがおかしい』ではなく、事前にわかって、じゃあどういう準備をしてベストにもっていこうかと」

 準備ができていなければ、先の塁へは行けない。相手のミスがミスにならなくなってしまう。『走魂』とはつまり、自分を知ることであり、失敗を恐れない勇気を持つことであり、勇気に根拠を持つことであり、スタートを切るための準備をすることだ。それは文字通りの走ることだけでなく、打つことにも守ることにも言えるだろう。

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