『走魂』から始まる意識改革
「全員の意識が変われば(今とは)違うと思います。『僕は走らない』はないですから」
プロ野球選手ではない、サラリーマンの私にすらもずしんと重い言葉だなと思いながら聴いた。走れる選手は走る。そうでない選手も隙があれば行く。チーム全員が同じ方向を向けたなら、相手にとってこんなに嫌なことはないだろう。
「チーム」になっているのは選手たちだけではない。
バックアップするコーチ陣もそうだ。そのコーチ陣に対しては、「細かく見てくれています」と松井監督も信頼を寄せる。日々コツコツと、準備の大切さへの意識を説いてくれているそうだ。
さらに今回、球団もバックアップ体制は万全だ。スローガンを決めるにあたっては、飾りとしてではなく(つまりある意味では商業的な計算をせずに)、松井監督が何をしたいかをベースに考え、ファンに対してはもちろん、選手に対しても何を浸透させたいかを考えて、たどり着いた。
継続的に『走魂』を浸透させるために、「こんにゃくパーク」を運営するヨコオデイリーフーズ社の協力を得て、「走魂賞」なるものが行われることも発表された。走魂賞に見合う選手を首脳陣が選出し、最終的にはファンの投票で決めるという仕組みは、よく考えられているものだ。
ちなみにライオンズナイターでは「盗塁賞」として、中継中、ライオンズの選手に盗塁が出るたびに「サイン入り77ミリ缶バッジ」をプレゼントするのだが、こちらはいささか安直過ぎただろうか(サインはランダムなので、リスナーの皆さん、集めてみてください)。
ベルーナドームでファンに見せたいもの
さて、話は逸れたが、松井監督はインタビューの際にこうも言っていた。
「当たり前のことを当たり前にやる。それが一番難しいんですけどね。人なのでモチベーションもあるだろうし、心が入ってくるから。でもそこはコントロールできるように。その積み重ね。それが大きいものになってくれたらいいなと思っているので、何か特別なことをしようとも思っていないし、特別なことを選手に言うこともないし」
凡事徹底が長いシーズンになれば簡単でないことは想像に難くない。松井監督自身もシーズンを走り切ることの厳しさは身をもって経験してきた。そんなときモチベーションになったのはファンの存在だったと話す。
「球場に足を運んでくれるファンの方、その人はその1試合しか来られないかもしれないじゃないですか。それでもその方に野球っていいなと思ってもらいたいですし、初めてきた人にも『この選手のファンになった』と言ってもらいたいし。僕らは毎日試合がありますけど、ファンの方はお仕事があったりいろいろある中で、毎日は来られなくても来た時に『やっぱりいいな』とか、『この選手好きになった』と思ってもらうためには、全力を出さないと。試合は戦い。形云々ではなく、全力で走る姿もそうですけど、必死で戦う姿、姿勢が大事だと思います」
どんな状況でも背中を押してくれるファンに戦う姿勢を見せるために、今年は守備に就くときの選手の登場方法も変わった。これまでの一人ひとり呼び出されて守備位置に向かう形から、9人が一斉に各ポジションに飛び出していく形になったのだ。
訊けばこれも松井監督の発案だそうで、チームとして1つになって戦う、チームで向かっていくという決意の表れだそうだ。
そういう話を聞くだけで(そして今書いているだけで)、わくわくが止まらない。開幕戦が待ち遠しくて仕方ない。今シーズンは声を出しての応援もできるようになったことだし、グラウンドに飛び出す選手たちを精一杯後押ししたいと思う。
インタビューの最後を、松井監督は力強くこうしめた。
「自分ひとりでできることは限られると思うので、コーチ、スタッフと一緒に、チーム全員が同じ方向を向いて、知恵を絞っていろいろなことにトライしていきたいですね。監督としても1年間走り切りたいです。走り切ります」
ライオンズナイターも放送42年目のシーズンを全力で走り切る所存です。
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