ついにこの日が来た。北広島市に完成した新球場でファイターズはどこよりも早く2023年の開幕を迎える。何もかもが「最初」とクレジットされるスペシャルイヤー。そこかしこに初めてのことが溢れかえっている。
だけど「最後」かもしれない景色もある。私はそれも頭の中に入れながら特別な年を過ごしたい。この場所で上沢直之投手と松本剛選手が同じユニフォームを着るのは今年がラストかもしれないのだから。
運命のドラフトは生涯の友を得る瞬間ともなった
上沢直之投手と松本剛選手。いまファイターズで人気・実力ともに最強のツートップ、ファイターズの顔だ。
プロ12年目の2人は2011年のドラフト同期。この年は高校生が4人指名された。松本剛選手、石川慎吾選手、近藤健介選手、上沢直之投手。運命のドラフトは生涯の友を得る瞬間ともなった。この4人は本当に仲がいい。
2016年オフ、石川選手がジャイアンツへトレード移籍、そして、近藤選手がFAで自ら決断して2022年オフにホークスへと移籍した。
ファイターズの2人は言う。「こんちゃんは本当に悩んでた。だから結論を出した時はそこから解放されるんだと思って、まずはよかったねって思いが強かった」と。
一緒にやっていきたいという思いはもちろんある。でも友達を思いやる気持ちも同じくらいある。新球場へホークスのユニフォームでやって来る近藤選手が二人と再会する姿が今から楽しみだ。
上沢投手らしい“1年限りのチャレンジ”
昨年12月、契約更改の会見で上沢投手が明かしたのはメジャーへの思いだった。ここ3~4年で芽生えたその夢は同期には随分前から話していたそうだ。
ただここには上沢投手らしいクレジットが付く。1年限りのチャレンジだということ。つまり2023年、メジャーに挑戦するほどの結果が出せない、もしくは興味を示すチームがないならこの挑戦はここで終わり。その先はもうメジャーとは縁がない野球人生と割り切る。
29歳、野球が出来るのもそう長くはない、夢にも期限を決める。
だからこそやれることは全てやるオフになった。メジャー選手も利用するアメリカのシアトルにあるトレーニング施設・ドライブラインへ足を運び動作解析を行い、改善点を明確にした。うまくいけば直球の速度はまだ上がる見込みがある。フォームも変えた。トレーニング方法にもメジャー流を取り込んだ。英会話ももちろん勉強中、WBCは大いに刺激になっただろう。公の場で話したことによりそれは引き返せないものになった。
例えばあの会見で特に何も言わなければ、もし断念するとしても表面上は何事もなかったことになる。ファンは何も知らないまま次のシーズンに進めばいいことだ。
一方、希望通りメジャーに移籍となるにしても、別に先に言っておく必要は絶対ではない。前々から思っていて、今年の結果も踏まえてそう決断しました、そう話せばそれで充分。
会見で話した理由は、ひとつには自分へ鼓舞、もうひとつは私にはファンへの優しさに感じた。ファンがそのつもりでいられるように、オフに急に言われて慌てないように、時間をかけてゆっくりと送り出す準備を整えられるように。「行けないかもしれないですけどね!」と上沢投手はいたずらっぽく笑うけれど、そんなことはきっとない。夢はきっと必ず正夢になる。