さまざまな騒動を経て、一時期、見るからにやせ細ったため心配されたが、その後、ジムでトレーニングをするようになり、“肉体改造”に成功する。それも、演技するに際し、いつまでも身体が動く人でありたいと思ったからだった。50歳を目前にしても、《役者にはリミットがない。それぞれの年齢で新しい挑戦が待っているから、その挑戦に臆病にならずにいるためには、健康でいること、ひとつひとつのお仕事をオーディションだと思って臨むことが大切》と、役者は身体が資本だという意識は強い(『GINGER』2021年12月号)。
「40代は楽をせず、もがかなきゃいけない」
「役者にはリミットがない」と話すだけに、いつまでも演技に満足することはない。10年ほど前、41歳のときの対談でも、《今まで経験した役柄のいろんなところをつまんで、縫って、一枚の布にするみたいなことは40歳までにできていました。けど、舞台で共演した大竹しのぶさん(中略)が自由な肉体と心をもっているのを見て、この「自由」を手に入れるには、40代は楽をせず、もがいて、たくさん引き出しを見つけなきゃいけないと感じました》と語っていた(『AERA』2014年11月3日号)。
昨年の大河ドラマ『鎌倉殿の13人』では、鎌倉幕府の初代執権・北条時政の後妻・りくを演じた。りくは、史実では「牧の方」という名で、実の息子に権力を継承させるため、夫の時政とともにさまざまな陰謀を巡らし、それが結果的に彼を追放へと追い込んでしまったゆえ“悪女”として伝えられる女性だ。
しかし、脚本の三谷幸喜からは「悪女としては描きたくない」と言われ、引き受けた。たしかに、このドラマにおいてりくは、ちょっと頼りなげな時政の尻を何かにつけて叩き、京生まれのプライドから夫の連れ子である政子や義時らに憎まれ口を叩くこともしばしばであったが、それでいてチャーミングで憎めない女性として描かれていた。
乗り越えようとしている「壁」
自由奔放な役どころのりくを、宮沢は楽しみながら演じている印象を受けた。しかし、本人のなかではまだ、先に語った「自由」を獲得したという境地にまでは達していないようだ。最近のインタビューでも、《40代前半の頃、尊敬するプロデューサーから、「もっと力が抜けるようになったら、あなたはもっと素敵になるよ」と言っていただいたんです。正直、その壁はまだ乗り越えられていません》と語っていた(『婦人公論』2023年2月号)。
自ら肩の抜けた演技ができたと思ったときこそ、宮沢りえは役者として「自由」を手にするのだろう。しかし、彼女のことだから、そこにいたってもなお新しい目標を見つけ、さらなる挑戦を続けているに違いない。