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頭の中は悪の道一直線

 気持ちいいからやってみろよと、なんでもないことのように勧められるのだ。あぶって煙を吸い込むだけならともかく注射は怖い。でも、その場にいる人は全員注射だ。迷っているうちにさっさと準備が進み、新しい注射針でやるから大丈夫だと言われれば従うしかなかった。

 幸いなことに、身体が幼いせいなのか、胃がむかつき、気持ち悪くなってしまった。だから、そのときは何が良くてこんなものに夢中になるのだろうと思った。

「でも、やったことに後悔はないわけです。悪い世界への興味があって、ひと通り経験してみたかった」

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 頭が悪くて勉強ができない自分には他人と競えるものがないが“悪い女部門”だったら一番になれる気がする。自分は悪いことならできる人間なのだから、トップを目指せるかも。いや、目指すべきでは。人並みのことができていないコンプレックスと負けず嫌いの性格から、なんでもいいから突き抜けた存在になりたいという気持ちが強くなり、いつしか頭の中は悪の道一直線……。

 まだ中学生だからか、廣瀬とスズはクスリ漬けにされることも、怖い思いをすることもなかったので、この家に腰を落ち着けることにした。

 生活費はヤクザがくれる小遣いで足りたのだろうか。

「中学生なのに車を持っている男の子がいて、あちこち出かけているうちにお金はなくなるよね。なんとかしなくちゃってことで、スズとふたりで自販機荒らしとか、公衆電話をボッコ(破壊)して生計を立てていた、ははは」

 無免許運転に器物破損、窃盗の罪が加わった。笑ってる場合じゃないよ。昔の自分はどうかしていた、バカだったとしか言えないと反省した上で廣瀬は喋っているのに、無軌道ぶりに腹が立ってくる。

温泉街で酌をする中学生コンパニオン

 で、それからどうなった。自販機と公衆電話で大金を稼げるとは思えない。

「私たち、どこかで知り合ったヤクザの紹介で、鬼怒川(きぬがわ)温泉のコンパニオンになるんです」

 ヤクザと接するのがあたり前になって、知り合った場所さえ記憶の彼方か。仕事であるのは間違いないが、中学生がコンパニオンになるのも違法行為だ。しかし、違法行為が常習化していた金欠の廣瀬とスズは、紹介してくれてラッキー、コンパニオンしに行こうぜと喜んでしまうのである。金づるとして紹介料をたんまりせしめられていることなど気づきもしない。じつに危なっかしいと、昔ばなしなのに僕とカンゴローはヒヤヒヤだ。