今回、はじめて文春野球コラムに登板させていただくことになりました、フリーアナウンサーの南隼人です。まずは簡単に自己紹介をさせてください。2012年より4年間、横浜DeNAベイスターズのスタジアムDJを務め、2016年からRakuten.FM TOHOKUでラジオ実況、第4回WBC侍ジャパンオフィシャルMC、そして2019年からは千葉ロッテマリーンズで中継リポーターとして、ヒーローインタビューも担当しております。
2019年にマリーンズからお話があった時に伝えられたのは「ヒーローインタビューが盛り上がるかどうかは、選手でなくインタビュアーだと思っています。南さんには、そこを期待しています」と、はっきり言われました。今回のコラムは、そのヒーローインタビューで、私が取り組んでいることを書かせていただきます。
『佐々木コール』が『朗希コール』に変わった日
WBCが終わり、佐々木朗希投手のZOZOマリンスタジアムへの凱旋登板となった4月6日。マリーンズファンの誰もが期待をし、胸躍らせたマウンド。その日の投球は言うに及ばず、期待通りのピッチング。6回無失点11奪三振で、猛打賞を放った中村奨吾選手と共に、さぁいよいよヒーローインタビューです。
私のヒーローインタビューのやり方は、事前に大まかな質問を決めておいて、その場で選手から出た言葉を受けて、アドリブを入れることを意識しています。理由としては、中継でありながらも、いちイベントとして、ヒーロートークショーを楽しんでいただきたいと思っているからです。
この日、佐々木朗希投手への最初の質問は「この大歓声を聞いていかがですか?」。この質問は、声出し応援解禁となった、今シーズンの4月の質問としてはデフォルトであって、応援してくれているマリーンズファンの皆さんへの挨拶のようなものでした。
しかし、彼の答えは「最初、『佐々木コール』だったので、誰のことだろうと思って(笑)」。見事な面白い切り返し! これには私もびっくりしました。この時点で、私の頭の中はフル回転。こんなに美味しいフリをもらって、こちらが応えないわけにいきません。通常のトークショーなら、そのまま「コール変えてもらいます?」と笑いながら言っていたかもしれませんが、そこはヒーローインタビューですので、夜のTVのニュースのことも考えなければいけません。一旦、試合の話をしながら、後半にもう一度この話を聞こうと思いました。
そして、一通り試合の内容やWBC絡みの質問をしたあとに、再び私の質問。「冒頭でもありましたが、毎回のライトスタンドからの『佐々木コール』はいかがでしたか?」。
これに対する彼の返しは、一拍置いて「最高です!」……。私は、彼がその言葉とは裏腹に、正直ちょっと困ったような顔、何か言いたいような顔をしているように見えたので、「いや、これは違うぞ」「何か含みがあるぞ」と感じ、こう言いました。
「これからも引き続き『佐々木コール』でいいですかね?」。「あ~聞いちゃった~!」と、私もその場で思ったのですが、最初のフリ、その後の佐々木朗希投手の表情、そしてスタンドの雰囲気が私の一言を後押ししてくれました。
「どっちでもいいですけど、僕は『朗希』のほうが呼ばれ慣れてます!」。その瞬間、私はすぐライトスタンドに身体ごと顔を向けて、「ライトスタンドの皆さん、これからは『朗希コール』でよろしいでしょうか?」と言うと、佐々木朗希投手はこの日一番の大歓声を受け、笑顔が溢れました。