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平沢大河に覚醒の予感…吉井監督の“粋な采配”はロッテを変えるか

文春野球コラム ペナントレース2023

2023/04/16
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 つくづく楽しい。吉井マリーンズの感想を一言でいうなら、「楽しい」に尽きる。

 吉井監督はチームに得点が入ると野球中継を流している居酒屋の常連客のように喜び、試合前後の取材では冗談を交えながら話す、つくづく愉快なおっちゃんだ。ベンチにいるだけでチームの雰囲気を明るくしてくれそうである。

 だが吉井監督はただのおっちゃんではない(当たり前)。

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 冗談を言いながらも采配の意図などは丁寧に、わかりやすい言葉で明かしてくれる。ファンに向けて真っ直ぐに発信をしてくれるから、あっさり負けた試合にもモヤモヤせずにスッと消化でき、ファンとしても精神的に健やかな状態を保てる。このギャップがすごくいいのだ。

 まだシーズンは始まったばかりだし、今年が優勝を争う一年になるのか、育成の一年に終わるのかはわからないが、吉井監督のここまでの立ち振る舞いだけで今年は最後まで安心して楽しめるだろうなと確信できた。実に素晴らしい監督である。

粋な吉井采配が演出した平沢大河の逆転弾

 あと、吉井監督はつくづく粋だなぁ、と思う。4月8日の楽天戦で平沢大河が放った逆転ホームランも吉井采配に導かれた一発だったのではないだろうか。

 故障してしまった荻野貴司の代役として一軍に昇格した平沢を、吉井監督は「一軍に上がってくるということは二軍で状態がいいということ」と、即9番ライトのスタメンで起用した。

 平沢は20年、21年と一軍出場がなく、昨年も一瞬輝きを放ったものの、一度二軍落ちを経験してからは再昇格することがないまま13試合のみの出場で終わってしまった。特に昨年は二軍で首位打者を獲得するほど安定した成績を残したのに、マリーンズの一軍は貧打にあえぎ続けて5位でシーズン終了。結果を残しても呼ばれない。打っているのに打てないチームから必要とされない。その悔しさは計り知れないものだったはずだ。

 やっとの思いでたどり着いた一軍の舞台。しかし平沢は第1打席で強い当たりを放つもダブルプレーとなり、第2打席も凡退。第3打席では持ち前の選球眼で四球を選ぶも、第4打席は1点ビハインドの8回裏に回ってきた。ベンチにはベテランの角中勝也や井上晴哉というカードも残されていた。ここで代打が出るのは仕方がない。ファンだけでなく、きっと本人も思ったことだろう。

 ところが吉井監督は平沢をそのまま打席に送る。一切悩む素振りすらなく平沢を打席に送る。場内に響き渡る谷保さんのアナウンスとファンの大声援。この起用を意気に感じない選手などいないだろう。そして平沢はライトスタンドに一閃。指揮官とファンの期待に見事に応えたのだった。

4月8日の楽天戦、逆転の2ランを放った平沢大河

 ダイヤモンドを一周し、ベンチ前で破顔して飛び跳ねながら選手たちの激しい出迎えを受ける平沢。彼のこんな表情を見たのはいつ以来だろうか。

 この日平沢が見せた顔は、溜め込んできた悔しさを喜びに変えて爆発させているような表情に見えた。平沢大河という青年は悩んでいる顔も男前だが、やはり弾ける笑顔が似合う。平沢本人だけでなく、平沢の活躍を信じ続けてきたファンも報われる、吉井監督の粋な采配だった。

 そして平沢だけでなく、田村龍弘の開幕からの起用法にもグッとくるものがある。

 昨季の田村は一軍でたったの2試合しか出番がなかったが、やはり二軍ではバリバリ試合に出場していた。しかし今年は吉井監督が早い段階から「開幕投手は決めてないけど、キャッチャーは決めている」と明言。フタを開けてみたら田村が開幕戦のマスクをかぶっていた。「今年は使っていくよ」という吉井監督からのメッセージだろう。実に粋である。田村は少しずつ感覚を取り戻すかのように、要所で光るリードを見せ始めている。

 吉井監督が作り出す楽しい空気と、選手を奮い立たせる粋な采配。これにより明らかにマリーンズベンチの雰囲気は変わった。パ・リーグのチームは強豪ばかりだが、シーズンの最後にはどんな結末が待っているのか、今から本当に楽しみでしかない。

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