文春オンライン

「公安警察の“本気の尾行”からは逃げきれない」元公安の作家が明かすスパイ天国・日本「ホンモノの諜報活動」の実力「酒好き、女好きを協力者に…」

genre : ニュース, 社会

note

屋上から単眼鏡を延々と覗くことは楽な仕事

本郷 張り込みは、対象者の家の前の民家を借りる場合があります。空き家なら借りるなんて当たり前の話ですが、居住者がいる一軒家の一室を間借りするなんてこともしょっちゅうです。当然、身分を明かして謝礼も支払いますが、一般人の生活の中に入り込むわけですから大変でした。夜中に対象者が動いたからって、家人を起こして「玄関の鍵、閉めておいてください」って…、気安くそんなこと言えないですよね(笑)。

 屋上から単眼鏡を延々と覗いているなんてこともやりましたね。ただ、これは楽なんです。覗いていればいいだけですから。大変なのは、路上で車が通過するのを確認する作業でした。一瞬で通り過ぎてしまうので、対象者かどうかを見極めるのは本当に疲れましたね。

本郷さん ©文藝春秋 撮影/山元茂樹

――「尾行」はどうですか?

ADVERTISEMENT

本郷 尾行で言えば、テレビなどでもよく描かれていますが、本気でやるときは相当な人数をかけて追尾します。逃げ切れないと思いますね。実は私自身が尾行されたことがあります。警視庁管内で協力者と会っていたことがあるのですが、最初はその人物に尾行が付いていました。そんななかで私が接触したものだから、「あいつは誰だ」と調査が入ったんです。このときも相当な人数が投入されたようで、私も気をつけていたのに、振り切ることはできませんでした。

――こうした捜査は“裏”の仕事という印象が強いですが、その意義とはなんでしょうか?

本郷 日常を変えないということです。何か危機が迫っているときに、事前にその芽を摘んでおくのが私たちの役割です。ある家族が明日にはいなくなってしまう計画が進んでいたところに、私たちがそうならないように動いたこともあります。

本郷さん ©️文藝春秋 撮影/山元茂樹

スパイ天国・日本は“面倒くさい国”

――諜報活動の賜物ですね。一方で、「日本はスパイ天国」と揶揄されることもあります。どう受け止めていますか?

本郷 世界の諜報機関は、すべて超法規的に活動が自由にできるとまでは言いませんが、「暗殺」もあれば、「拉致」もある。「拉致」は「逮捕」という言葉に置き換える場合もありますが、日本のように法律を守っている諜報機関は他にありません。だから、日本のレベルは推して知るべしです。

 ただ、他国の情報担当者と話していて面白かったのは、「日本は情報がダダ漏れだから、日本に来てもやることがない。自分たちの仕事を探すのが大変だ」と言われました。スパイ天国に派遣された彼らからすると逆に“面倒くさい国”みたいですよ(笑)。

小説・日本の長い一日

小説・日本の長い一日

本郷矢吹

ART NEXT

2023年3月22日 発売

「公安警察の“本気の尾行”からは逃げきれない」元公安の作家が明かすスパイ天国・日本「ホンモノの諜報活動」の実力「酒好き、女好きを協力者に…」

X(旧Twitter)をフォローして最新記事をいち早く読もう

文春オンラインをフォロー

関連記事