こうしたなかで、果たして国民は2人の慶賀に関心を示しているのだろうか。
このふたつめの気がかりも、ロンドンに到着するやすぐに吹き飛ばされた。
式典の前日にパレードの経路を歩いてみると、もう何日も前から沿道の至る所に「陣取り」をしている人々が無数にいた。さらには街中にはためくユニオンジャック。
式典の当日は朝4時起きで、6時にはバッキンガム宮殿前の特設スタジオに入ったが、すでに大勢の観衆が宮殿の回りに詰めかけていた。のちの報道では、街中に100万人も集まったようだ。
「恒例」バルコニーでのキス
圧巻は式典が終わった後だった。主役の2人を筆頭に、王族や賓客たちが宮殿に戻り、レセプションが始まると、それまでロンドン中に散らばっていた群衆が警官隊に先導され、次々と宮殿前に流れてきた。チャールズ皇太子とダイアナ妃以来、ロイヤル・ウェディングの「恒例」となったバルコニーでの2人のキスを一目見ようというのだ。スタジオで解説していた筆者にも人々の熱気はみるみるうちに伝わってきた。
冷徹な国民としたたかな王室
英国国民は冷徹である。王室の重要性は認めるものの、王族たちが何かスキャンダル等で失敗すると、容赦なく彼らをこき下ろす。
対する英国王室もしたたかである。失敗に気づくとすぐにそれを改め、緊縮財政や種々の改革、さらには戦争への対応など、その時々に英国が直面する問題に真剣に取り組み、国民との一体感を取り戻そうと懸命に努力する。
これが17世紀の2度の革命、夫君アルバートの死後にヴィクトリア女王が隠遁した際に生じた「共和制危機」(1868~71年)、エドワード8世が離婚歴のあるアメリカ人女性との結婚で退位した「王冠を賭けた恋」(1936年)、そしてチャールズ皇太子との離婚の翌年にダイアナ妃が電撃的な事故死を遂げ、世論の王室への非難が高まった「ダイアナ事件」(1997年)を経た後も、王室が連綿と国民からの支持を集めている要因である。
そして今回結婚したばかりのロイヤル・カップルにも、この王室と国民の一体感を強めるという重責が期待されているのであり、聖婚式でもパレードでも堂々たる態度を示してくれた彼ら2人ならそれを成し遂げられると確信した、解説席からの1日であった。