矢野顕子との出会い
もう一人、同じような驚きを感じたのが矢野顕子さんです。彼女の音楽を聴いたときも、高度な理論を知った上でああいう音楽をやっているんだろうと思ったのに、訊いてみると、やっぱり理論なんて全然知らない。
つまり、ぼくが系統立ててつかんできた言語と、彼らが独学で得た言語というのは、ほとんど同じ言葉だったんです。勉強の仕方は違っていても。だから、ぼくらは出会ったときには、もう最初から、同じ言葉でしゃべることができた。これはすごいぞと思いました。
そして、だんだん確信を持って感じるようになったのは、ポップ・ミュージックというのは、相当おもしろい音楽なんだということです。
日本中から集めても500人いるかどうかというような聴衆を相手に、実験室で白衣を着て作っているような音楽を聴かせる、それが当時ぼくが持っていた現代音楽のイメージでした。それよりも、もっとたくさんの聴衆とコミュニケーションしながら作っていける、こっちの音楽の方が良い。
しかも、クラシックや現代音楽と比べて、レベルが低いわけではまったくない。むしろ、かなりレベルが高いんだと。ドビュッシーの弦楽四重奏曲はとてもすばらしい音楽だけど、あっちはすばらしくて、細野晴臣の音楽はそれには劣るのかというと、まったくそんなことはない。そんなすごい音楽を、ポップスというフィールドの中で作っているというのは、相当に面白いことなんだと、ぼくははっきりと感じるようになっていました。
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