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つねに自分の素性がバレることを恐れていた

2015年、麗華さんは自らの31年の半生を綴った『止まった時計─麻原彰晃の三女・アーチャリーの手記』(講談社)を本名で上梓した。表紙カバーは麗華さん自身のポートレートで、まっすぐ正面を見つめている。オウム誕生前夜の一家のつましい暮らしに始まり、教団の内幕、母やきょうだいとの確執、父の優しい姿と壊れていった姿、父なき後の教団の迷走などを半年かけて書き上げたものだ。

 この本に名前も顔も出したのは、「私はこうして生きています」と顔を上げたかったからです。麻原の娘だと分かった途端に入学を拒否され、就職もままならず、後ろ指を指される。当時の私はつねに自分の素性がバレることを恐れていました。でも、そんな人生はもう終わりにしよう、自分から名乗ってみようと思いました。

 それまでのできごとを正直に書いたことで、人との心の距離はぐっと近くなりました。大学時代の同級生たちからは、「これまでどう接したらいいか分からなかった」と打ち明けられました。そうか、だからなんとなく遠巻きに見られていたんですね。

 

「謝る」というのは自分を守るための行為なのでは

 新たに出会った人たちとの距離も近く感じます。本に何でも書いてあるので、私に対してこんなこと聞いていいかなという迷いがないのかもしれません。私のほうでも、この人は私が麻原の娘と知っているんだろうか、知らないんだろうかと探る必要がなくなりました。

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 本の中に、事件の被害者に対する言葉がないという批判をいただきました。私は、被害者の方の思いや苦しみは私が軽々しく語れるようなものではないと思うのです。私が被害者に向かって謝るというのは、何か自分を守るための行為なのではないかという思いを払拭できないのです。大学時代は友だちと議論になりました。

「お父さんを捨てたら麗華は自由になるんだよ。麗華の人生のためにはお父さんを捨てるのは必要だよ」と言われたんです。その彼女はいわゆる一卵性母子。すごいお母さん子だったから、「あなたはお母さんが逮捕されたら縁を切るの?」と言えば私の思いをわかってもらえると思いました。ところが、「私は自分の人生のためだったらお母さんと縁を切る」と迷わずに言うので、二の句が継げませんでした。

●松本さんが心理学を学ぶきっかけとなった家庭裁判所でのできごと、両親への思い、ネット上にカウンセリングの相談室を開設した理由など、インタビューの全文は『週刊文春WOMAN2023創刊4周年記念号』でご覧いただけます。

text:Atsuko Komine
photographs:Asami Enomoto 

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