文春オンライン

2023/05/09

「翔平さんは僕の“鑑”」ライバルでもある先輩が示す背中

 伊藤の送りバント成功に絶叫し、喜び、真っ先にベンチで抱きついたのが加藤翔平だった。

 記者により深い野球の技術を教えてくれる“先生”の一人が加藤翔平だ。昨年から先生は「岡林も天才的な守備しますけど、若手なら康祐が一番技術は高い」と教えてくれていた。「ポジショニングや打球の追い方、クッション処理など外野守備といっても色々あります。強肩だけが外野じゃない。きっとプロに入ってからたくさん練習して技術を高めたんだと思います」。

 そんな加藤翔平がシーズン前の今年3月、2軍にいたときに伊藤から不意にかけられた言葉が忘れられないという。

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「康祐から『翔平さんは僕の“鑑(かがみ)”なんで』と言われました。そうやって見てくれる後輩もいるので、ちゃんとやらないといけないなと改めて思いましたね」

 伊藤がこの言葉の意図を説明してくれた。

「言いましたね。翔平さんは僕の鑑です。野球への取り組み方や、普段の姿勢も含めて。自分の生きていく道を示してくれている。翔平さんを超えないといけないのは分かっています。でも、僕の目標というか、スタメンじゃない生き方をプレーや行動で示してくれている。翔平さんと年齢で入れ替わるんじゃなくて、近い将来、実力で『もうこいつにはかなわないな』って思ってもらえるようにしたい」

 さらに続けてこう言った。「この間、『もう翔平さん、邪魔です』って言いました。冗談半分ですけど、本気半分です」。プロの世界は、競争も世代交代もいつスタートするか分からない。常に、弱肉強食しかない。したたかにポジションは狙い続ける。

 昨年オフの契約更改で、伊藤は悲壮な思いで口を開いていた。

「んんん……自分はスタメンで、という感じではなく、後半に守りから出て。この歳なんで、こんな寂しいこと言うのもあれなんですけど、そっちの方が生きていけるんじゃないかなと。シーズン一軍にいればスタメンも見えてくるんで。でも、まずは途中から少ないチャンスもらって結果を出していくしかない。自分は、鵜飼や岡林みたいに華があって、輝いているわけではないのでコツコツ頑張っていきます」

 自虐的だったが、本音だったはず。自分の立ち位置をしっかり見て、筋道を立てて2023年に臨んだ。

 伊藤は本拠地での登場曲を21年に引退した遠藤一星さんが使っていたMANISHの「煌めく瞬間に捕われて」にしている。大好きだった先輩に思いを込めた。その前は、JUDY AND MARYの「そばかす」という、昭和生まれにはどストライクの選曲で気分を高揚させてくれていた。

「何を求められているのかをずっと考えていたい。2軍ではずっとスタメンで出てたんですけど、1軍で求められるものとは違うので、常に守備固めで入ったときのような緊張感を持ちながらやっていました。そういう意味でも、バントや守備でチームの勝利に貢献できた意味は大きいと思う」

 人生を賭ける瞬間を超え続け、泥臭く、一生懸命食らいついていく。どんな生き様だって、プロ野球選手のかっこいい生き様なのだから。

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