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巨人・坂本勇人は3000本安打を達成できるか? 恩師・岡崎郁が語る“限界説”とファンへのお願い

文春野球コラム ペナントレース2023

2023/05/16
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――坂本は大丈夫ですか?

 最近、そんな質問を受けることが多くなってきました。

 坂本勇人は今年プロ17年目、12月には35歳になる年齢です。依然として巨人の中心選手であることに変わりはありませんが、昨年は故障が相次ぎ出場数は83試合止まり。今季も開幕直後に大不振に苦しみました。

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 坂本が5月14日までに積み上げた安打数は2231本。通算3000本安打まで769本です。NPBでは張本勲さんに続いて史上2人目の快挙を成し遂げられるのか、考えてみたいと思います。

坂本勇人 ©時事通信社

追い込まれるほど力を発揮する男

 私が坂本を初めて見たのは、彼のプロ1年目。光星学院(現八戸学院光星)から高校生ドラフト1巡目でプロ入りした時、私は巨人の2軍打撃コーチだったのです。

 当時の坂本は華奢で、まだ体に力はありませんでした。それでも非凡だったのは、タイミングの取り方。左足を高々と上げ、スムーズに体重移動して体内のエネルギーをボールに伝える打ち方ができていました。この感覚は天才的といっていいでしょう。少なくともレギュラーを獲れる選手だろうと思いました。

 その反面、坂本の野球に取り組む姿勢に引っかかりを覚えました。私の目には、坂本が「ラクをしてうまくなりたい」と考えているように見えたのです。センスのある選手にありがちですが、スマートに上達したい野心が透けて見えました。

 ただし、坂本が幸運だったのは早々に1軍でチャンスをもらえたことでした。プロ2年目には二岡智宏が故障で離脱し、坂本が一躍レギュラーに抜擢されました。早い段階で1軍を経験して、「これでは通用しない」とわかったのでしょう。高橋由伸、阿部慎之助、小笠原道大、ラミレス、李承燁といった大先輩に囲まれ、「なんとか追いつこう」と懸命に努力したからこそ、今の坂本があるはずです。

 坂本は追い込まれれば追い込まれるほど、実力を発揮する男でした。なかには追い込まれると力が入り、かえって結果が出なくなる選手もいます。豊かな才能を秘めながら、結果を残せずに巨人を去った選手は何人もいました。

 センスのある選手を低いレベルに漬け込んでいると、いつしか周囲に同化してしまいます。坂本が長く2軍にいたら、もしかしたら花を咲かせることなく野球界を去っていたかもしれません。

 2019年に打率.312、40本塁打、94打点のキャリアハイをマークして以降、坂本の成績は緩やかな下降線をたどっています。さまざまな原因が考えられますが、私はなかでも肉体面、技術面に問題があると見ています。

 私の持論ですが、プロ野球選手には「プロ年齢」というものがあります。プロでレギュラーとして活躍できる期間は「15年」が限度。もちろん例外もありますが、25歳でレギュラーを獲得した選手なら40歳まで活躍できる、という考え方です。

 プロ野球選手だって生身の人間です。年間140前後の試合に出続ければ、体に疲労が蓄積されていきます。私も現役晩年の頃は、毎日毎日自分の体に問いかけながら騙し騙しプレーしていました。

 坂本はまだ34歳ですが、プロでレギュラーになったのは19歳の時。15年もプロでレギュラーを務め続け、肉体的負担がかかりやすいショートとして歴代最多の出場数を記録しているのです。相当な疲労が蓄積されていると見るべきでしょう。

 過去の名選手を見ても、20歳前後でレギュラーを獲得しながら35歳前後で急降下した例は数多くあります。清原和博、立浪和義、松井秀喜……。あの掛布雅之さんも15年目に引退しました。

 坂本は昨年に右ヒザ痛や腰痛で戦線離脱し、今季もコンディションの問題で欠場する試合がありました。これからの坂本の野球人生は、コンディションとの戦いになるのは間違いないでしょう。

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