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巨人・坂本勇人は3000本安打を達成できるか? 恩師・岡崎郁が語る“限界説”とファンへのお願い

文春野球コラム ペナントレース2023

2023/05/16
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「サード・坂本」に反対する理由

 技術的には打席での構え方に変化を感じました。近年の坂本はスタンスを広く取り、重心の低い構えでした。それが今年は春先からスタンスを狭めて、重心が高い構えになっていました。

 言い方は悪いですが「突っ立った」印象で、スイングのバランスも悪く見えました。坂本なりの考えがあって変えたのでしょうが、もしかしたら下半身や腰の負担を減らすためのフォーム変更だったのかもしれません。

 開幕から結果が出なかったこともあり、坂本の重心はどんどん下がっていきました。それに伴って、数字もだんだん上向いていきました。

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 たったそれだけのことで……と思われるかもしれませんが、重心を下げるのはしんどいのです。普通の人でも「立ってなさい」と言われれば何時間でも立てますが、両ヒザを曲げた状態で立ち続けるのは難しいでしょう。重心を下げ、重みを感じることで自分の体をコントロールしやすくなるメリットがあるのです。

 肉体的な負担を減らすために、坂本を他のポジションにコンバートすべきという考えも耳にします。でも、私は「サード・坂本」はやめたほうがいいと考えています。これは原辰徳監督にも直接お伝えしました。

 なぜなら、サードでは精神的な負担が減らないからです。

 ショートは投手の後ろ側からボールを見て、目線を変えなくても打球が見えます。でも、サードは角度的に目線を一瞬切らざるを得ません。さらにショート以上に強烈かつ、バウンドを合わせにくい打球が飛んでくる。おまけに一塁へのロングスローもしなければならない。新たなストレスが増えるはずです。名ショートと言われた選手がサードにコンバートされ、順応するまでミスが増えるのはそのためです。

 打撃に専念させてやるなら、サードよりファーストがいいでしょう。ただし、「ファースト・坂本」の姿も、正直言ってイメージが湧いてきません。

 そう考えると、やっぱりショートにいてこそ坂本だよな……という結論にたどり着くのです。本人もショートへの強いこだわりがあるでしょうし、ショートができなくなった時点で一線級の選手としては幕を引くことになるはずです。

 個人的な願望を言わせてもらうと、坂本には年間100試合でもいいからコンディションを維持してショートを守り続けてもらいたい。結果的にそれが3000本安打への近道になるでしょう。

3000本にたどりつくために……

 坂本にとって今季が正念場なのは間違いありません。

 先ほど私は、「坂本は追い込まれれば追い込まれるほど実力を発揮する男」と書きました。でも、私の目には坂本が野球選手としてギリギリのところまで追い詰められているようには見えないのです。

 今の巨人を見渡してみて、坂本を押しのけてでも使いたいショートがいるでしょうか? 私はドラフト4位ルーキーの門脇誠を「スーパールーキー」と評するほど買っていますが、今すぐ坂本にとってかわれる存在とまでは思えません。

 1軍という世界は、若い人に経験を積ませる場所ではありません。力のある者だけが立てる舞台、いわばタイトルマッチのリングなのです。坂本からレギュラーを奪おうと思ったら、少ないチャンスで爆発的な活躍を見せ続けなければ難しいでしょう。坂本が今季に結果を残せれば、少なくともあと数年は巨人のショートを守り続けると私は見ています。

 最後に、ファンのみなさんへのお願いがあります。

 坂本勇人という野球選手は、読売ジャイアンツという球団にいたからこそ、これだけの成績が残せたのだと私は思います。常に大観衆からの視線と歓声を受ける、刺激的な環境は坂本の性格にピッタリ合ったのでしょう。

 私が初めて巨人ファンの大歓声を浴びた日、両足がガクガクと震えました。でも、慣れるとそれが快感に変わりました。たとえばカラオケで5人の前で歌おうが、5万人の前で歌おうが、恥ずかしさは変わりません。でも、5万人の前で歌ったほうが快感になるのです。きっと坂本も、それと似た感覚でプレーしているのでしょう。

 坂本に対して、インターネット上で心ない声が飛んでいるのも承知しています。たしかに彼は、すべての面で完璧とは言えないかもしれない。プロである以上、結果が出なくて批判されるのも仕方のないことです。ただ、彼が戦ってきたこと、守ってきたことのすべてを否定しないでもらいたいのです。

 そして、いい時も悪い時も「頑張れ」と言ってくれるファンの存在が、ボロボロになった背中を押してくれるのです。

 どうか坂本に力を与えてやってください。そして、3000本安打を達成するその日に、みんなで喜びを分かち合いましょう!

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